Solo1968

ダーマーのSolo1968のレビュー・感想・評価

ダーマー(2022年製作のドラマ)
4.1
 実際にあったアメリカにおける連続殺実事件の犯人であるジェフリーダーマーを軸に彼のその犯行をスリラー作品として描くことに留まらず、彼を取り巻く家族 被害者 被害者家族 隣人 管轄の警察 から服役後に彼に関わる服役者までのそれぞれのドラマが描かれた 壮大なヒューマンドラマだった。
 古い過去から今現在もそして未来でもゼロになる事を強く願うが、望みの薄い とても理解し難い猟奇殺人事件。僕自身もこの事件の最中に社会人として生活していたのに新聞なども読まないし、ニュースを自ら見る人間でないこともあり、こんな恐ろしい事件があった事を知らずにいた。
 犯人であり本ドラマで焦点となるジェフリーダーマーがいかにして17人もの人の命を奪う事になったのか?犯人はどれほど恐ろしい人物なのか?という一面でなく、本事件が何年にも渡り犯人逮捕に行きつかなかった大きな問題について、とてもわかりやすくドラマティックなシナリオと演出で一気に見進められ、日頃の平和な生活の中では考えることの無い問題意識を持たせてくれた。

 本事件は、10年以上?にも及び長い期間、ある意味野放しになってしまっていた事。地元の警察や市の信じ難い杜撰であり保身体制、80年代でも、いや現在でも根深く残る人種差別問題という大きなものが絡み合い 命を失う必要の無かった多くの犠牲者を出し続けてさせた 犯人だけでなく警察や市や国の腐った体制を問う事件なので、やはりそれなりのボリュームがある。
 意図的に繰り返される場面や回想シーン、単に時間軸に沿った流れではなく 著しく時代を行き来するシナリオもとても緻密で見事。
 ともすれば、歴史に残る凶悪な猟奇殺人事件の犯人のサイコに特化したスリラー作品として見えるかもしれないが、彼を軸にした 彼だけでなく、いつの時代にもこの先にも 日本では起こりにくいがアメリカにおいては、繰り返される事も大いに起こり得ると思わされるような暗示であり、警告としても受け止められた。
 作品後半で頻度も高くなり、また作品が問う いくつかのテーマのひとつにある 信仰 キリスト教の信仰、神の存在に関しては 無宗教なので、作品内の教会に通う人々であり牧師さんであり、犯人の家族被害者などの信念は表面的には受け止められても、100%のリアリティーが無いので、特に最終話での見事な三つの異なる場所をリンクさせた映像によるハイライトの感動が人よりも少なかったかもしれない。
 また後半になり、ようやく文字や台詞で現れる 「悪魔を生み出した原因とは?」で作品中主人公に次いでとても乗用な存在である父親の葛藤を表す演出も息を呑む。ベテランの役者さんならではの迫真の演技に、感情移入させられる。
 また、父親と同じくらいの重要な存在となる犯人の犯行現場のアパートの隣人の黒人女性を演じた役者さんもとにかくエモーショナルな演技に圧巻させられた。

 途中4話あたりから、作品名が
ジェフリーダーマーでなく
ダーマー という苗字である事に
犯人の父親であるライオネルダーマーの物語でもあるんだよな、などと自分なりに考えたりもした。

 いつの時代、どこの国でも?
心なき野次馬であったり、人の気持ちを踏みにじる興味本位で倫理のない大勢の愚民、人の不幸でビジネスをする大勢の不届き者、、。歴史に残る凶悪で恐ろしい連続殺人の犯人だけが罪を犯した唯一の悪ではなく、それに群がる愚民も悪に気付けない恐ろしい悪魔なんだよなと、そういう事を良く分からせてくれる作品。

 

 
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