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ラーゲリより愛を込めてのhikarouchのレビュー・感想・評価

ラーゲリより愛を込めて(2022年製作の映画)
3.0
本年劇場一発目。場内超満員。いくら年始とシネマデーが重なったとはいえ、公開からそこそこ日も経つこの映画にこれだけの人が集まるってのは驚いた。評判が広がってるのかな。そしてみんな、結構泣いてたね。

良いところもあるけど、同じくらい微妙なところも目につく作品だった。

もちろん史実なので、あれやこれと思うところはあるし、もっと感情を乗せて見たい気持ちだったんだけど、どうしてもどこか冷めて見てしまう自分がいた。正直ちょっと拙いというか、あまり普段映画を見ない人とか、お年寄りとかに向けて作られた映画なのかなと思ってしまったかな。(非常に好感度の低い感想でごめんなさい。)

まずセリフや演出の説明過多が気になる。また映画の作りにもあまり感心できるポイントがなかった。すべて予想の範囲内というか。特に冒頭の満州市街のセットや空襲のCGもかなりチープで、出鼻を挫かれてしまった。予算とか時間とか難しいんだろうけど、あそこはもう少しなんとかならなかったのか。

ニノは、常に30%くらいオーバーアクトに見える。テレビドラマならこれでも結構良いんだけど、映画、特にこうしたシリアスなトーンの話だと、浮いてしまうよね。あー、ニノが頑張ってるなー、と思っちゃうのよね。役の山本さんではなく。昔の少年ジャンプのようにどこまでも前向きな良い子ちゃん主人公ってのも、イマドキ見ていてしんどいってのもあった。

ただ脇を固める役者陣はなかなか良くて、特に北川景子は意外なほどにとても良かった。顔立ちとか、声の感じとか、ちょっと若いときの吉永小百合のようにも見えた。出演作をほとんど見てこなかったので、元々良い役者なのか、急激に成長したのかは分からないけども。

松坂桃李、安田顕、桐谷健太もすごかったね。彼らがこの映画の屋台骨として、映画を支えていたように見えた。それぞれ抑えた演技と、ここぞでの迫力がちょっと他の役者とはレベルが違ったね。

母を亡くした男が母への手紙を読み、妻を亡くした男が妻への手紙を読む、というあの展開は上手かった。けどやっぱり、ちょっと泣かせに来てるのが見え見えというか、甘ったる過ぎてやや胸焼けしてしまった。もう少しクールな方が、個人的には好み。いや、ちょっと泣いたけどさ。

オープニングとエンディングが繋がる話の構造も、ああここに繋げたかったからあのオープニングだったのかと。やりたい事は分かるんだけど、オープニングがあまりに取ってつけた感があったので、ああこれがやりたかったのか、となってもしまった。寺尾聰おじいも、一言多いのよね、、、。

結局この映画で、作り手が何を伝えたかったんだろうか。「どんなときも希望を捨てるな」とか「正義(劇中では道義)が大切」みたいな、昔の少年マンガみたいな教訓がすごく前面に出てきてしまって、みんな泣いてたから満足してる人も多いんだろうけど、この案件から得られる教訓ってそれで良いんだろうか、というのはちょっと思ってしまうな。
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