ちょげみ

BLUE GIANTのちょげみのレビュー・感想・評価

BLUE GIANT(2023年製作の映画)
3.7
音楽映画ということで一番力を入れているのが演奏シーンだと思うんですけど、ここで使われているCGが違和感ありまくり、というかヌメヌメしててちょっと気持ち悪いです。

他にもメインキャラクター3人の声がちょっと棒読みという言葉が脳裏をチラつくような感じでした。
そんなわけで弱みというか悪目立ちする箇所がないというのが視聴後の率直な感想です...



が!!!!!
それを補って余りある、というか映画の評価を下げるマイナス要素すべてが霞んで見え、どうでもよくなってしまうほどの魅力があるのが本作『ブルージャイアント』です。

正直この映画の激アツポイントというのは数えあがればキリがないけれど、より多くの人の胸を打ったであろうポイントを2つ抜粋してつらつら書き留めていこうと思います。



①バックグラウンドやバックボーンが異なる3人のメンバーにスポットを当てて観客の感情移入を誘っている。

本作は東京に住んでいる18歳の青年3人がジャズバンドを組むというストーリーですが、メンバー一人一人の音楽歴、才能、性格、目指す場所というのはてんでばらばらでほとんど共通点がありません。

主人公の宮本大は世界一のジャズプレイヤーを目指し東京に上京してきた熱血漢で音楽歴は3年。
沢辺雪折は東京一のジャズプレイヤーを目指す音楽歴14年のベテランプレイヤーでジャズ界を誰よりも冷淡な目で見つめている。
玉田俊二は都内?の大学に通う学生、大に感化されてドラムを始めた素人で自分の未熟さを毎日飲み込みながらもひたむきに練習している。

そんな共通項が少ない3人が時にぶつかりながら、時に友情を深めながらバンド活動に精を出していくわけなのですが、ことバンドに限らずとも、彼らが劇中で体験する感情というのは誰もが身に覚えがあるものなのではないでしょうか。

・自分一人が劣っていることで生じる悔恨の情や引け目や負い目
・意思疎通がうまくできずビジョンを共有できないことで感じる苛立ちや自己嫌悪
・コミュニケーション不全やボキャブラリー不足ゆえに生じるすれ違いやわだかまり
・目一杯頑張っているはずなのに成果が出ないことで感じる停滞感や歯痒さ
・そしてベストパフォーマンスを発揮して最高の結果を勝ち取ったことで生じる何者にも変えがたい高揚感などなど。

チームで事にあたって何事かに取り組む時に個々人の能力や熱量の違いからどうしても直面してしまう人間関係の構築の難しさ、その時に渦巻く情動の激しさなどを余す事なく表現しています。

バーナム効果ではないけれど、誰か一人には深く感情移入することができるんじゃないかなぁと思います。
そしてそれが作品への没入感を高め、演奏シーンには本物のジャズライズさながらの熱量と感動を五感を通して魂に訴えかけてくる、と言ったら言い過ぎかもしれませんが、それくらいのパワーを生み出していると思います。



②否応なしに引き寄せられてしまう、主人公宮元大の確固たる決意と狂気

冒頭、大が雪が降りしきる真冬の河川敷かなにかで練習しているシーンから始まり、その時に大が
「なる...世界一のジャズプレイヤーになる...」
みたいなことをしきりに呟きながらサックスを引いています。
その後も彼の練習風景や先のセリフを繰り返す様を度々もぐりこませるのですが、その並々ならぬ意思と熱量にあてられるごとに私は別の感情に苛まれていきました。

「大、怖ぇ...」

冒頭で覚えていた好感が中盤にはほとんど恐怖に変わっていたといいますか、一歩後ずさってしまうようなオーラを感じるようになります。

おそらくこのように感情を持つに至った原因として最も有力な説は、自分が大の中に潜む「揺るがぬ意思」の中に狂気を発見したからなのではないかなと思います。

狂気とは何かというと「なんかこいつやばいな」という印象、一言で言うと自分の理解の及ばない振る舞いです。

寝食などの生存本能、集団で生きる人間としての社会性さえ超えて、彼を突き動かすもの、そしてそれを成すためには命すら投げ打つ覚悟で全てを賭けて取り組む姿勢。
それが自分と彼とのちがいを明確にさせて、彼を異質の存在に祭り上げ、彼を狂気の中に囚われている人として見てしまうのでしょう。

(大の練習風景が徐々に恐怖映像に変わっていったのは、何かに没頭するという健全な行為も度を越えればそこにはなにがしらの「狂気」を感じてしまうということなのかな。)

そんな大を怖いと思う、遠いと感じると同時に、重力にひかれるように吸い込まれてしまうのは事実。
魅力的なキャラが多い本作のおいても、ひときわ大の存在感というのは際立っていたかなぁと思います。


総括すると、CGが受けつけられない、原作から少し改変されているという不平不満はあるとしても、鑑賞後にはそんなことどうでも良くなってしまうくらい熱量と魅力に溢れた作品である事に間違いはないと思います。
ここ数年で公開された音楽映画の中でも個人的にはベスト3にはいる作品です。
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