ShuheiTakahashi

オッペンハイマーのShuheiTakahashiのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.6
自然の調和から、不調和をもたらすものに辿り着く。

矛盾が共存する物理学の面白さと恐ろしさ。
矛盾が共存する人間の面白さと恐ろしさをまざまざと見せつけられた。

私もそこまで詳しくはないが、名前とその人物が何をした何を研究してきた人なのかくらいは知ったうえで見るとより面白いかも。
水爆の父であるテラーくらいは知っておかないときついかも。


物語の構成はそこまで難解ではなく、むしろわかりやすかった。
そして一切の淀みなく、無駄な描写もなく、台詞もキレッキレ。

3時間とは思えない。
むしろ短くさえ感じた。

映像や音、無音の使い方まで抜群で、期待値を軽々と超えていく。

実際に原爆を落とすシーンは映像としては描かれておらず、それもオッペンハイマーにとってリアルで、距離感を感じさせた。
自分ではどうしようもない大きな流れをつくりだしてしまった。

テラーとの関係も割と描かれてており、キティが握手をしなかったのも良かった。
個人的にはテラーのしたことは別として、キャラクター自体は好きではあるが。

映画には関係ないが、水爆の実験を成功させた時の「It's a boy」という言葉は台詞としても最高だなと思う。

ラスト前、アインシュタインが告げる、お祝いの場の意味。

人間と動物の違いは火を愉しむか恐れるか。
神から火を盗んだプロメテウス。
所有は盗むこととした資本論。
原爆をつくりだしたオッペンハイマーは世界から何を盗み奪ったのだろう。

人間として生まれたからには人間だからこそできることを。
それは環境保護や破壊、管理、制御などではない。
人間は自然の一部であり、自然は人間の一部。
人間が何をしてもそれは自然の範疇だ。
世界は善でも悪でもない。
揺らぎながらただそこに在るだけ。
だからこそ、考えなければならない。
人間の行為は対人間にしかできない。
生態系は弱肉強食という言葉があるが、そんなことはない。
その言葉自体人間が勝手につくりだしたものだ。
弱いものが食べられるわけではない。
弱いと勝手に決めたのは人間でしかない。

人間は選ぶことができる。
ライオンは肉を食べなければ生きていけない。
シマウマは草を。
人間は肉を食べなくても生きていける。
動物を食べなくても生きていける。
選ぶことができる。
殺すより、少しでも殺さない方がいいのではないだろうか。

話がめちゃくちゃ逸れた。
でも、そんなことまで想起させてしまう映画だった。

オッペンハイマーがいなくても、原爆はつくられただろう。
人間が何をしたところで、最終的には星は死ぬ。
けれど世界が終わるわけではない。
この世界という概念も人が勝手につくりだしたものだ。
だからこそ、何をしても意味はないからこそ、今生きる上で、今のこの状況を環境を変えたい。
少しでも殺さないほうがマシな世界ではないだろうか。
生きる上で殺すことからは逃れられないのだから。
ShuheiTakahashi

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