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さがすのhikarouchのレビュー・感想・評価

さがす(2022年製作の映画)
4.2
うおおお。これはすげえ。。。

かなりしんどい話でありキツい描写も少なくないが、それでも見てよかったと思わせるほどの力がある作品だった。

演技も演出も撮影も素晴らしいが、やはり脚本がちょっと図抜けている。

後に事実が明かされることによって、観客が脳内で事前のシーンまで遡ってその意味を上書きしていくという快感に痺れた。あとから考えればそりゃそうかと思うような種明かしも、時系列を巧みに操作することでギリギリまで観客に気づかせないのも非常にうまい。娘は、あるものを拾った段階で父親の正体を知り、その奥に隠された家族の秘密にも気づいていたということが、セリフでは全く説明されないが、誰でも分かるように示される鮮やかさよ。子どもナメんな映画のひとつとしても、忘れがたい逸品。

また、この娘のキャラクターが実にストレートに感情を乗せやすく、偽善臭強めなシスターへの対応も含めて、見る側のストレスを解放してくれる存在だったのも、特に前半パートの見やすさに繋がっていた気がする。しんどい話なのに、もう見るのやめたいとは全然思わなかったな。

「本当に死にたいやつなんていなかった」というセリフの持つ重みよ。そして、あの時妻が自らの手で終わりにしようとした後で、オッサンに抱きつき唇に吸い付くようにキスを求めたシーン。(自らの服の中に手を入れさせているようにも見えた。)まさに死と対極にある生を象徴するような性的な行動が、本能としていかに生を求めていたかを示していたという意味に気付かされて、やりきれない気持ちになる。と同時に、脚本の語り口の見事さに衝撃を受ける。

犯人が片手で財布から免許証を出すシーン、あれどうして片手だったんだろう。右手はその後の"行為"用にとってあったのか、それとももう"行為"が済んでいたからなのか。または右手は何かで塞がっていたのか。わかる人がいたら教えて欲しい。

クーラーボックスからこぼれ出たたくさんのプレモル。犯人は、オッサンと飲むために買ってたんだな。全く擁護できない悪魔のような人間だったけれど、それでも寂しさを感じ、心許せる誰かを求めていたんだろうか。こういう繊細な作劇も素晴らしかった。

佐藤二朗も演技が上手いのでびっくりした。比企能員と全然違うじゃんよ。

昨年の「空白」に続き、安易に他人には勧められない系の傑作であった。
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