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THE FIRST SLAM DUNKのhikarouchのネタバレレビュー・内容・結末

THE FIRST SLAM DUNK(2022年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

原作漫画が好きで子どものころから何度も何度も読み返して世の中の事象の9割をスラムダンクのメタファーで語れるような人で、昔のアニメシリーズが全くバスケの動きに見えないという理由で思い入れが無くて、今回のアニメ映画にも期待し過ぎていなかった人にとっては、かなり楽しめる作品だったのではないかと思う。つまり僕のような人には。

原作のプロットに忠実な山王戦パートと、完全オリジナルな過去回想パートとを行き来する構成が良かった。

前者の山王戦パートは、原作から大幅にセリフを削り、登場人物も削って(魚住・・・)、よりバスケの試合のスポーツ面を前面に出して描いていたのは興味深かった。コンテや画角も完全に今回のオリジナルになっていて、何度も読んだ山王戦を別の視点で見れるのが楽しかった。

その辺も含めて、この上ないほどに一見さんお断り映画に振り切っている。原作コミックをちょっと読んだだけくらいのライト層には結構ワケわからないんじゃないかと思う。このあたりは、若い世代とかスラムダンクを読み込んでこなかった人の感想を聞いてみたい。逆に原作ファンからすると、もはや自分がこの映画に感動しているのか、原作の映像化に感動しているのか、原作を思い出して感動し直しているのか、よく分からない感覚になった。
「左手はそえるだけ」なんて、声のセリフが無くても余裕で脳内再生されてしまう。そんな映画、他にあり得ないだろ。

そういう、原作を読み倒している観客が大前提の、普通の映画では絶対にできないやり方で作品を成り立たせているので、1本の映画として見るとめちゃくちゃ狂ったバランスだったとは思う。(褒めてる)

主題歌、The Birthdayも10-FEETも蓋を開けたらどっちも良かったね。特にオープニングのあの手描きパラパラ漫画で両チームが登場するくだりとThe Birthdayの地鳴りのようなリフとベースラインとの相性が最高で、めちゃくちゃアガった。原作ファンが好きなスラムダンクがどういうものかよく分かってる人が作ってくれてるなというのが伝わってくるオープニングだった。

バスケの動きはめちゃくちゃ良かったと思うけれど、事前に批判が出ていたように、やっぱりちょっと平面的で淡白なアニメ表現になっていたのは少し残念だった。(あとなんかみんなやたらゴツかったな笑)
ところが最終盤のところで一気に表現方法が変わって、まさに「漫画の映像化」なアプローチになり、疾走感と迫力がもんのすごく良かったので、全部とは言わずともこのアプローチをもっと見たいという気持ちにはなった。それができていたら、日本の「スパイダーバース」になれていたかもしれない。予算とか技術とか、色々難しいんだろうけど。

2時間映画のさらにその半分くらいの時間で語るにはこの試合は情報量が多過ぎるので、ちょっと性急で軽い感じになってしまったのもある。前の試合や前夜からのフリが効いていないのも惜しい。(脳内で補完できるけど。)

本来桜木が主人公の話を宮城中心に語り直しているので、ちょっと試合場面はフォーカスが定まらない感じはあった。そのことが余計に、粛々と進むバスケの試合を見ている感につながっていた気がする。それが作り手の狙いなのかどうなのか。

後者のオリジナルプロットも良かった。宮城リョータのバックグラウンドが描かれた上で、山王戦のコートに戻ってくると、想いが何倍にも増幅される。今回はたまたま宮城だったけれど、他の登場人物たちにもそれぞれに物語があるんだということに思いを馳せる。山王のメンバーも含めて、本当にそこに生きているようなキャラクターたちがこの漫画の大きな魅力なんだということをあらためて思い出させてもらった。桜木や三井、赤城、小暮は背景の話を原作の中でも割と語られていたので、宮城にフォーカスを当てるというのも納得感があった。ちょっとウェット過ぎた気もするけど、まあそこはご愛嬌。


「おれは今なんだよ」すべての勝負する人たちの背中を押してくれる素晴らしいセリフだよね。


あらためて、原作を読み返したくなった。製作者のみなさん、どうもありがとう。お疲れさまでした。
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