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コーダ あいのうたのsoopenのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
4.5
聾唖者の両親と兄を持ち、自分だけが健聴者として産まれてきた17歳の少女。家族仲は良いものの、聾唖者を受け入れる環境にはない小さな漁港で漁師として父と兄が働くには、通訳者として自分が必要、と朝は3時に起きて漁に出て、収穫を漁港で売り、戻ってからは学校に行き、合唱クラブの練習にも参加。

日本でも最近焼津漁港で、カツオが長年漁業組合や水産加工会社に数量を誤魔化されて盗み取られていた事件が発覚したが、同じように、アメリカでも義業者の立場は低く、売値より遥かに低くしか買い取られないという普遍的な水産流通の問題があり、特に聾唖者であることは、全くデメリットでしかなかった。

どうあっても健聴者がいなければ、漁にも出られず、生活も成り立たない。ヤングケアラー問題である。そんな中で、少女は大好きな歌で頭角を表し、合唱顧問に見出され、個人レッスンを受けてバークレーを目指すことに。家族との生活か、自分の夢を追い求めるのか?

悩みながら、ぶつかり合いながら、家族は理解を深めていく。娘の歌がどれほどのものなのか?自分達には分からない、それでも発表会での他人の褒め言葉や、観客の様子を見て娘の気持ちを尊重しようとする父。

この映画は、誰にでも分かりやすいテーマで、ストーリーなのがまず受け入れられ易い。根の深い社会的な問題を全面に出しながらも、争い立ち向かう家族と、その家族の関係性の違い、違っていても自分達は家族で愛し合っているんだという強い絆を、主演のエミリアジョーンズの美しく表現豊かな歌声によって終始表現している音楽映画だと思う。

特にエミリア扮するルビーが、バークレーを受験する際に歌った曲、ジョニミッチェルの、青春の光と影、この歌詞の翻訳が素晴らしい。実際は恋愛を中心に置いて、若い頃の楽しさや苦労なんて、今思い返してみれば幻のよう、本当は人生のことなんか知らないもの、というような内容のようだが、これをルビーの人生に当てはめて、私は聾唖者の立場も健聴者の立場も知っているBOTH SIDES NOWのことも含めて歌っているんだなぁと思うと胸が熱くなった。

選曲が素晴らしく、音楽にも歌詞にも癒されていく、そして聾唖の人々にも音楽を感じるやり方があって、そこは本当に感動的なシーンだったと思う。もう一度観たくなる映画なのは間違いない。
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