長い鑑賞時間と共に心が満たされていく作品でした。
原作は味気ない読み味ながら不思議な求心力を持つ作品という印象でしたが、本作はその原作を再現することに重きを置いておらず、要所で原作の設定や主題、見せ所を尊重しながら新たな命の宿った映像作品として再構築しているように感じました。
繊細で美しい映像、不意を突いて魅せる洒脱なカット、絶妙な感情の変化を表現する演者の名演とそれをナチュラルに捉えるカメラワーク、必要な所でそっと華を添えるスコア・音響、などなど作品を構成するどれもが心にスッと入り込んできて、そして満たしていく。
日本人監督作からこの様な名作が生み出され、世界的に高い評価をもって受け入れられたことは大変素晴らしいことだと思いますし、何より、鑑賞後のえも言われぬ充足感こそ、映画鑑賞の醍醐味だよな、と改めて。
決して心地良いだけのストーリではありませんが、悲しい心の闇と向き合ったが故に吐露した本音の先に差し込む煌めきの眩さたるや・・・。
今後も心に残り続けるであろう、自分にとっても大切な作品との幸福な出会いにまた感動です。