merrydeer

音楽のmerrydeerのレビュー・感想・評価

音楽(2019年製作の映画)
3.0
大橋裕之の傑作漫画を岩井澤健治監督が映像化。

制作期間は7年に及び、作画枚数は40,000枚を超えるというエピソードからも、声優には坂本慎太郎、岡村靖幸、劇中音楽にはスカートの澤部渡に、主題歌はドレスコーズという作品に関与する錚々たるメンツからも、本作にかける本気度がいかに高いものであるかが窺えます。
その本気度がプリミティブな煌めきを持った原作漫画に良くも悪くも全力で注ぎ込まれ、ハイクオリティな映像作品として新たな命を宿して生まれ変わっている印象。

原作漫画は、絵のタッチもあるいはプロットも過剰な飾り気や緻密さは希薄そうに見えるのに、物語に入り込む必然的な余白も含め、一コマ一コマが積み重なることで、虚な日常に不意に血が通い、要所で読み手の心を震わせる、そんな剥き出し故の魅力みたいなものが溢れていたと感じています。
初めて3人でグルーヴを生み出した衝撃がその音は聴こえなくとも臨場感を持って伝わってくるシークエンスなどはその象徴のように思います。

そして本作。
執念すら感じる凄まじいアニメーションとこだわり抜いた「音」などの要素が折り重なることで、作品としての厚みは間違いなく原作よりも増している事は理解できるものの、一方で、原作においては読み手側の感受性にも委ねていたであろう余白や空白(あるいは主人公研二達が奏でる音の正体)までも必要以上に埋められ、大橋先生が(恐らくほぼ)己の身一つでその当時の様々な感情を漫画と言う表現方法で投影していたからこそ成立していた、荒々しくも美しい自然体の輝きの放出を幾分かスポイルしてる様にも思えてしまう。

映像化に向け最大限の熱量が注がれている事は明らかだけど、これが最良の形であったのかについては中々判別に迷ってしまい、個人的にはまるで「空洞です」を初めて聴いた時の様な、すぐには飲み込みきれない、得体の知れない奇妙な違和感が残るのであった…。
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