Ayumi

ドライブ・マイ・カーのAyumiのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
3.0

原作は読んだことがあるが、映画はかなり肉付けされているので、まったく違った印象を残す。音の人物造形、渡利の広島での事故は、オリジナル。妻を愛していた主人公が、妻と親密な関係を築いていたと思う一方で、妻の浮気を発見しても面と向かって問いたださない。主人公がその答えを探していく過程も映画独自のものだった。

序盤の霧島れいかと西島秀俊が演じるシーンの美しさ、中盤以降の「ワーニャ叔父さん」のテキストを織り交ぜながらの進行は見事だと思った。妻の浮気を目撃しても、笑顔でやり過ごしてしまう主人公は、西島秀俊がよく演じていたと思う。

ただ、女性の描き方にはやはり抵抗があった。家福は音の運転に(やんわりとはいえ)文句を言ったり、渡利が女性だからドライバーを任せることを躊躇したりする。褒め方も「女性だけど運転がうまい」みたいな言い方で。20年前ならともかく、2020年にもなって女性へのステレオタイプが強すぎではないだろうか。(ここは原作のほうがひどいけど)

主人公が女性を失って、女性によって気づきを得るという構造なわけだけど、なぜ触媒役が女性でなければならなかったのか、という点は疑問に残る。渡利の存在意義は、車中でテープを聞いていても、高槻とかなりプライベートな話をしても、まるでいないかのような扱いをできるということのように見えた。互いに家族を失ったという共通点が見つかるとはいえ、関係が違いすぎるため、北海道に行くシーンは唐突感が残る。

個人的には、妻の浮気を見てもとがめない男性って、どれくらいいるんだろうと思ってしまった。実際は妻を所有物のように見る男性のほうが多いわけで、まぁその男性の弱さは村上春樹っぽくはあるけど。村上春樹の「僕」シリーズは、大切な人を「失う」経験をしても嘆いてるだけだったので、映画の家福のたどりつく結論は、やはりオリジナルだと思った。
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