映画ネズミ

頭痛が痛いの映画ネズミのレビュー・感想・評価

頭痛が痛い(2020年製作の映画)
3.8
向いている人:
①今、何かに苦しんでいる人
②昔、何かに苦しんだことがある人

チネマットオンライン試写会で鑑賞。

 このオンライン試写会のおかげで、邦画ミニシアター系作品を見る機会が増えて、さらに映画に対する見方が広がってきました。ありがとうございます。

 不登校の高校生・鳴海は、ある日自分の遺書を他人の家の郵便受けに投函する同級生・いくと出会い、2人の交流が始まる…という物語。

 人それぞれの「死にたい」の形。自己破壊への願望が色々な形で映像に焼き付けられています。SNSの投稿、ライブ配信、自傷行為、そして自傷行為にも似た性行為…。様々な行動として現れますが、その「死にたい」の思いにはグラデーションがあります。

 同じく「死にたい」と思っていても、その思いの裏には、その人なりのバックグラウンドがあり、それを完全に他人と共有し共感することはできません。

 この作品は、鳴海といくの2人の(現実、今いる世界からの)逃避行を描いていきますが、どちらかというと鳴海の苦悩を中心に描かれている気がしました。いくについても、断片は描かれているのですが、その行動にはいまだ謎が多い。

 それは、「死にたい思いのバックグラウンドは、相互理解不能である」という先ほどの考えに基づいていると思います。

 それをよりいっそう強調するのは、いくの遺書を受け取った記者・直樹のエピソード。彼は正義感からその遺書の追跡を始めますが、彼のたどり着く場所が、全てを象徴しています。

 主演のお2人の演技はとても素晴らしかったです。鳴海の行き場のない鬱屈とした表情と自暴自棄を通り越して全てを諦観したような台詞には心締めつけられますし、彼女と行動を共にし、心を通わせようとしているようで実は中々自分の心を明かさないいくの、抑えた受けの演技も素晴らしかったです。

 若者の自殺を描くにあたって、「人生ってのはね…」的な講釈を垂れる大人が出てこなかったのも好感でした。そんなことを言っても彼らにとっては何の意味もないし、そんな、ハナから分かり切っていることを言われても鼻白むだけですからね。

 主人公2人が一緒にいるシーンは、台詞は限られていても、2人それぞれの苦悩と絶望が伝わってきました。時に2人の思いが交差し、時に全く断絶してしまうのが一瞬の表情の変化や画角の変化で分かるのも良いなと思いましたし、時に重苦しく、時に優しい沈黙が印象的でした。

 この2人のシーンを見るためだけでも、劇場で見たいなと思います。ぜひ、拡大公開をお願いします!
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