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スパイの妻のhikarouchのレビュー・感想・評価

スパイの妻(2020年製作の映画)
3.1
これ後から知ったんだけど、もともとはNHKのテレビドラマだったものを劇場公開用に再編集した作品だったのね。
高評価の作品にもかかわらず見るからに金が掛かっていなくて(再現VTRみたいなシーンもある)面食らうのだけど、このことを知って完璧に合点がいった。

監督曰く、まず脚本があり、そこに「予算がギリギリ集まった」から撮影に踏み切ったのだそう。CGは「もちろん」使えない、セットも新設できないので大河ドラマ「韋駄天」のセットを借りたそう。(つまり、大河ドラマの方がよっぽど予算があったのだろう。)ただ一方で、当時さながらの衣装を1から準備し、役者陣の髪型も当時のものにすることを「贅沢だった」とも語っていて、日本映画界の貧しさを感じてしまったな。。。まあこれは映画の外のお話。

話のスジは面白いし、どこに行き着くのか最後まで分からなくて楽しめる。暗い時代の雰囲気がよく表現出来ているし、ひとつの国が破滅に向かっているその一端から、いま我々の国の置かれた状況にも重なるように感じられて、重たい。

妻の待望は夫とともに生きることだったが、夫の待望は正義を貫くことと妻が無事に生きることだった。それぞれの愛情の有り様とその違いが良く表現されていて、そこもとても良かった。

爪のくだりも良かったね。

ただ、予算のことを抜きにしても、色々と気になるところはあった。

まず役者たちのセリフ回し。昭和10年代のセリフを令和の人間丸出しのイントネーションで発話してしまう違和感。監督は「役者陣はこの時代の映画を元々よく見ていたから、何も指導は必要なかった」と語っていたけど、指導したほうが良かったんでない?衣装がみんなツルツルピカピカの新品だったのも相まって全く当時の人間には見えない人物が多かった。脚本家の意図を役者が汲み取れていなかった印象。

あと、本作の舞台は神戸なのに、なぜ主要キャストはみな標準語を話していたんだろう。高橋一生の会社の人たちが一部関西弁を話していたから余計に気になったな。

終盤、空襲があって病院の周りはめちゃくちゃになっているんだけど、そんなに激しい爆撃あったかい?テーブルの上の小物がカタカタ言っていただけなのに、外に出たらすでに周りの建物は崩れ落ち、火の手ももはや残り火のような状況。そのあたりの繋がりの不自然さも、なんとかならなかったもんかと思ってしまった。

最後の「お見事です」も、よう分からんかったなあ。この夜の出来事は、あなたの夫とは繋がっていないでしょう?

映画化するなら、ちゃんと予算をとって映画として撮らないと、やっぱりもったいないね。

何回か出てくるバスのシーンは、外の風景が全く映らず窓の外は真っ白っていうのが、再現映像のようなチープさにも見えるが、めっちゃ斬新な演出にも見える不思議さがあって、ここはちょっとおもしろかった。

ちなみに本作は、ドライブ・マイ・カーの濱口竜介さんら黒沢チルドレンによるオリジナル脚本だそうな。そういう文脈を汲んで見れば、またいろいろな味わいがあるのかもしれない。
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