Maki

17歳の瞳に映る世界のMakiのネタバレレビュー・内容・結末

17歳の瞳に映る世界(2020年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

なんの予備知識も無くプライムビデオで作品を鑑賞した。

タイトルは原題の『Never Rarely Sometimes Always(めったにない 時々 いつも)』のままが良かったと正直思う。邦題の『17歳の瞳に映る世界』も悪くはないのだが、ありきたりで思春期のナイーブさばかり前面に出ている気がする。寡黙な主人公の視線の先に映し出される対象に観てる側は主人公の心情を察しストーリーが進行していくのでなるほどとは思うのだが、〝17歳〟という年齢を日本人って、希望や瑞々しさ、はたまた神々しさまで感じたり、それと共に危うさや儚さと耽美的に思い描き過ぎるかもしれない… それこそ登場人物の少女二人を取り巻く世界で彼女たちへ湿っぽい特別な視線を向けるキモイ大人たちとさほど変わらない。
「男だったら良かった」
そう10代の頃から感じる軽い失望はあらゆる場面で課せられる。

〝Never Rarely Sometimes Always(めったにない 時々 いつも)〟この言葉が、何を表しているのか初めさっぱり解らなかったが、映画の最も重要と言える場面でそれは出てきた。

息が詰まるような閉塞感。オータムが鏡の前で膨らみ始めたお腹をこぶしで何度も殴る場面に(お願いやめて…やめて)と目を背けた。こんなことするのなら何故きちんと避妊しなかったの?彼女に対して苛立ちも感じた。
「男だったら良かった」
妊娠しない男は自分だけ気持ち良くなって事の後は安全な場所で他人顔でいるのだろうか。

州ごとに法規制が違い宗教的な思想が政治に大きく影響するアメリカで、ティーンの彼女が親に知られず中絶手術を受けることは地元のペンシルバニア州ではできない。彼女の住む州から離れ未成年でも権利が尊重されサポート体制が整うニューヨークの全米家族計画連盟(PPFA)という団体が運営するクリニックで手術を受ける必要があった。

一緒に付き添ってきた唯一の友人で従姉妹のスカイラーにさえ感情を見せようとしない主人公オータムが、ニューヨークのクリニックで手術の説明とカウンセリングを担当する親切な女性スタッフの前で張り詰めていた糸が切れ声を殺して涙を浮かべる。お腹にいくつもできた青痣、疲れ切った表情。私にも年頃の娘がいるので人知れず娘がこんな状況の中で決断を下したとしたら… そう考えると辛すぎる。オータムも本当は母親に助けを求めたかったことを感じられる場面に泣けてきた。

ニューヨークのクリニックでは彼女の
「親になる自信がない」
その言葉を否定したり説得しようとはしない。
「それで良いのよ。自分の意思で決めることが大切」
と彼女に声をかける。
中絶手術を受けるにあたって、体だけでなく心の準備とサポートをする側も彼女のことを知る必要がある。いくつかの問いに3択で答え、手術が誰からの指図でも無く本人の希望であることの意思確認、彼女がその選択に至るまでの過程がこの〝Never Rarely Sometimes Always〟の3択で選ぶ答えで手術をサポートする側にもおおよその見当がつくような問いになっていた。同時に映画を観てる私たちにも、彼女の周囲に終始漂う不穏な空気と複数の違和感の正体がぼんやり見え始める。
あゝ… 彼女はある人をいつも観察するように目で追っていたではないか。
冒頭の学祭の舞台でギターで弾き語る曲の歌詞は彼女のささやかな抵抗だったし、その人へ自分の存在がいったい何なのか問いかけだったのかもしれない。
14歳で初めてSEXを経験した相手で妊娠させたのもおそらくこの男ではないだろうか?映画では最後まで妊娠させた相手の男は明かされない。

地元に帰った後、彼女を待ち受けている現実はやはり残酷だ。今後の生活はまた同じ状況を繰り返す可能性もある。彼女がそれを強い意思で拒み耐える力を、どうかこの辛い経験から得たことを願う。
「あなたの力に今後もなるから連絡して」
そう伝え名刺を彼女に渡したニューヨークのクリニックのカウンセリングスタッフと、彼女の傍らでただ黙って寄り添い続けた従姉妹スカイラーの存在が希望だ。
オータムの中でニューヨークへ向かう前と帰る時ではスカイラーへの信頼が大きく変わったと感じた。彼女がいてくれて良かった本当にオータムは心から感謝しているのだろう。きっとスカイラーのピンチの時にもオータムは彼女と同じように体を張り彼女を助ける覚悟があるのだと思う。
安全な場所なんてこの世界には無いのだろうか。

簡潔に感想がまとめられなくて長くなってしまう…
オータムの母は常に思春期の娘と父との関係に気遣い立ち回り優しい言葉をかける。柔かな雰囲気が無口な娘のオータムよりも男性ウケの良い従姉妹のスカイラーの雰囲気によく似ていると感じた。
スカイラーは歳のわりに気の利く優しい子だ。しかもかなり可愛いし愛嬌がある。きっとその立ち振る舞いはスカイラーの周りの大人の女性たち、母や叔母、祖母たちから影響を受けてきたのではないかと思う。そうした周囲の様子を幼い頃から見て彼女なりに身につけた処世術なのかもしれない。
女性蔑視的な言動を日常的に目にするあの土地の男性が好む女性像を演じる。トラブルを回避するため自分を守るため否応なしに身につけていたのかもしれない。
「男だったら良かった」
この先の人生、彼女たちはあと何回そう思うだろう。
Maki

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