Maki

アフター・ヤンのMakiのレビュー・感想・評価

アフター・ヤン(2021年製作の映画)
4.3
A24が配給する映画はホント良い作品多いなあと思います。この作品もとても好きな作品。鑑賞後は少し切なく静かな余韻に包まれました。夜、眠る前に鑑賞すると優しい穏やかな眠りに落ちそう…

それぞれの場面に使われたサウンドトラックも良かった。AIロボットのヤンの記憶の中で流れていた曲が、岩井俊二監督の『リリイ・シュシュのすべて』の〝グライド” だった時、ああこの曲使うんだ… とリリイシュシュを観た人には解るあのやるせなく延々と続く孤独感、救われない行き場の無さの中で手の届かない遠い場所にある一筋の光のようだった曲が、ここでも特別な曲となってストーリー全体にキーワードのように繰り返し流れる。いろんな思いが走馬灯のように駆け抜けザワザワした気持ちになった。夕暮れ色に染まる画面の中に静かに流れるチェロの音色。UAの名曲“水色”は郷愁を誘い風景の中溶け込んでいくようでした。先日亡くなられた坂本龍一作曲のテーマ曲もまたこの作品に重厚な世界観を作り出しています。

中国系の養女ミカの兄として家族に迎えられたロボットのヤンが暮らす家の作りやインテリアがとても美しく心地良い空間を感じました。落ち着いた調度と大きな窓から射し込む光が作りだした影が優しく揺れたり、ガラス越しに見える屋外の鮮やかな緑の木々や空の色など印象的。また、作品全体を通し少し仄暗い映像の中に趣が滲み出ていて、ココナダ監督が拘る美と見せ方を感じました。

派手な展開は無い作品ですが、多様なルーツで構成された家族の一員のロボットのヤンが、耐久年数を過ぎ寿命で壊れてしまったことを機に、彼らが人間とロボットとの境界線も超えて心を寄せていたこと、ヤンの存在が唯一無二で心にぽつんぽつんと残していった彼の足跡に改めて家族は気づかされ愛おしくなります。

幼いミカが学校の子に中国系のミカの外見からも両親とルーツが違うことを指摘され、そのことを寂しそうに〝グァグァ(お兄ちゃん)〟と慕うヤンに話した回想シーン。ヤンがミカを畑に連れ出して〝接ぎ木と家族〟の話をするシーンが良かった。一人一人の個性が結束し合い新しい可能性を生み出すこと、けれどそこには一人一人の中に遠い過去からずっと繋がれ託されてきた命のルーツを皆誰もが持っていることをミカに気づかせる。素敵な話なのだが、同時に科学の力で人間に製造されたロボットのヤンがそれを語ることの不思議さと、クローンの人間を作り上げることが、どうやらこの世界では合法的に行われていてそれに嫌悪感を持つ人もいる。ヤンはそのことをどんな風にとらえていたのだろう?と疑問も湧いた。

修理のできないヤンのメモリに記録された映像を確認のため覗き見る場面は、まるで銀河系の星を訪ねるように映像が流れる。彼の眼差しを通し録画された短い記憶の一つ一つ、家族の映像と四季、日々の経過をロボットのヤンは人間以上に詩的な感情を持ち合わせ見つめていたのではないだろうかと思える美しさで胸に刺さった。
人とロボットが生きる時間軸の違い、変わりゆく環境を目の当たりにしなお存在し続けることは悲しいことだろうか?別れと出会いを幾度となく繰り返しながら人間に寄り添い続けてきた彼を、自分の姿を鏡に映し見つめている映像に彼の心情を想像したまらない気持ちになった。同時にプログラムされたロボットの中に心情を読み解くことへの疑問も自分に感じ、またそう感じる自分が都合良く感傷的な部分だけ切り取って人間優位に物事を考えている傲慢さも苦々しく気づかされる。

ラストにミカが

お兄ちゃんの好きな曲…
I wanna be I wanna be
I wanna be just like a melody
Just like a simple sound
Like in harmony…

と口ずさむ。
人間とかロボットとか期間限定の形などそれはどうでも良いことで、始まりも終わりも無く、この世界にどう在りこれからもどう在り続けたい。 
そうヤンが答えているみたいだった。
Maki

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