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木靴の樹のkojikojiのレビュー・感想・評価

木靴の樹(1978年製作の映画)
4.6
 ずっと奥の方に眠っていたものを揺り起こされるような映画だった。

 舞台は19世紀末の北イタリア、ベルガモ。村の農場にすみこむ四戸の家族の物語。ロベルト・ロッセリーニ監督のネオ・レアリズモを継承しながら詩情溢れる映像で、家族の一年を綴る。まさに名作だ。

1978年 イタリア🇮🇹映画
監督・脚本:エルマンノ・オルミ
音楽:J・S・バッハ
撮影:エルマンノ・オルミ
上映時間 186分

四戸の家族は、
・小作人として農場に暮らすバティスティ一家
・6人の子を養うルンク未亡人
・美しい娘マッダレーナのいるブルナ一家
・けちで知られるフィナール一家

この家族の1年間を数々のエピソードで淡々と描く。
 控えめな若いカップルの恋愛と結婚、地主の所有する木🌲を切って息子が学校まで歩くのに履く靴を作ってやる父親、鶏の糞を使ってトマトに肥料を与えて早く実らせる老人など。
 その他、子供達の鬼ごっこ、アヒルを料理するため首を落とすシーン、長く飼ってまるまると太った豚🐖を屠殺するシーンなど当時の農家の暮らしが現実のように容赦なく描かれている。それだけに、その間に写される自然が美しく輝く。
一見ドキュメンタリーのような演出。それもそのはず、演じるのは全て農民の素人。
しかし、心配はいらない、全く違和感がないばかりか、それが逆に自然で飾り気がなくすごく雰囲気を出している。子供達の遊び方、仕事の手伝い方、食事の仕方、作られたものとは思えないように自然だ。
 
全編を通して、「人の営み」とはこういうことだと言われている気がする。貧しい人が突然家に祈りに来ると食を与えるエピソードは、一瞬なんのことかわからないが、敬虔な農家はそうした人達に対してこんな形で施しをしていたのがわかる。それが逆に自然な村の暮らしを感じさせる。
因みにこの老人を演じる農夫の、少しふざけたような芝居がいい。

 この映画で、物語や映像と同じくらい強く印象を残すのが、バッハの楽曲。
「無伴奏チェロ組曲第三番」や、あの有名な「小フーガ ト短調」などが流れる。

評価4.2今年のベストテン入りの傑作。
2023年 390本目
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