hikarouch

犬王のhikarouchのレビュー・感想・評価

犬王(2021年製作の映画)
3.9
鑑賞中にこれだけ自分の中での評価が上下した作品も珍しい。例のごとく、予備知識なさすぎて面食らってしまった案件かも知れない。
もしこれから見る方は、これ↓だけは分かった上で見たほうが楽しめると思う。

これ↓
監督:湯浅政明、脚本:野木亜紀子、キャラクター原案:松本大洋、音楽:大友良英というとてつもない座組。そして、南北朝から室町期に活躍した能楽師・犬王に題材をとった古川日出男の2017年の小説『平家物語 犬王の巻』を原作とした"ミュージカルアニメ"(ここ重要)だということだ。

そう、ミュージカルアニメなんだよな。(大事なことなので以下略)
これ↑

自分はそういうことは一切知らず、「湯浅監督の最新作で結構評判良いらしい」というカスのような知識だけ握りしめて本作を見始めてしまった。

物語が分かりやすく、しかし奥行きがあって素晴らしい。このあたりは原作(未読)の力か野木脚本の力か。アニメーションとして相当攻めた表現をしていても、それが邪魔になるどころか、しっかりとストーリーとのマリアージュが成立している。宮崎駿さんにもこのあたり見習ってほしいくらい(怒られるからやめておけ)

また松本大洋原案のキャラクターたちの魅力、衣装や舞台の艶やかさ、ぐっと引き込まれる世界観がめちゃくちゃ気持ち良い。アニメーションの気持ちよさに溢れている。また古典日本美術へのリスペクトと融合も良い。見始めてすぐに、「これはおれの好きなやつだ・・・!」となった。

稀代の猿楽師と琵琶法師との友情と成り上がりの物語もとても良いし、演奏される敢えて時代から逸脱した現代的な音楽(ロック)も大友さんの仕事はやはり悪くない。それに合わせて猿楽師が踊るというのも良い。良いんだけど、、、、

なっげえよ!!!

中盤、15~20分(体感30分)はこの演奏とダンスを聞かされ見せられる。いや良いんだけど、でもそれほどではないのよ。5分くらいでスパッと次に行ってくれれば手放しで良かったんだけど、「んんんん~~しつこいわ!!!」とツッコミたくなってしまった。特に、アニメーションで見せられる「踊り」って何よ。音楽はまだ生身の人間の演奏だから感慨があるけど、アニメの踊りって。しかもこの作品の踊り、特に最初のころの犬王の踊りは、踊りにすら見えないのよね。というか、生き物の動きに見えない。それをさもこの映画の見せ場かのように延々と見せられるこの20分くらいが本当に苦痛だった。白状すると、ここだけ途中から3倍速くらいにした。

ただ後半また劇映画の体裁を取り戻し、犬王と友魚(ともな)による体制との戦いと友情の物語に戻るとまたグッと心掴まれ、ラストの展開含めて素晴らしかったので、あの中盤の長い歌と踊りが本当に惜しい。
(犬王の父の最期とかも、アニメーションでここまでやるかと感心した鮮やかさと恐ろしさがあった。)

ただ冒頭に書いたように、この映画の座組と「ミュージカルアニメ」というジャンルを理解すれば、まあそうなるのも分かるっちゃ分かるというか、その程度の前提知識もなく見てしまったおれが悪いといえば、悪いのだよね。
hikarouch

hikarouch