イスケ

メトロポリスのイスケのレビュー・感想・評価

メトロポリス(1927年製作の映画)
4.4
ジョルジオ・モロダー版を鑑賞。

SF映画の本格的な発展の始まり。
100年前にこの世界観を創り上げるとは恐れ入る。

ブレードランナーのディストピア都市を50年以上も前に先取ってるかのようで、すべての造形に不気味さと美しさが混在します。

この時代に、未来都市で飛行機や車が行き交ってる様子が描かれているところには見入ってしまうし、
アンドロイドがマリアの姿を吸収していく際の電光リングによるビジュアルや、富裕層世界への入口に少し邪悪さを帯びているところなど。
兎にも角にもビジュアルが素晴らしい。

加えて、フレーダーが見た悪夢のように、カルトらしさも含んでいる点がさらに魅力を底上げします。

一方、化学が絡むと丸底フラスコで液体をグツグツするという古典も混在w
古典って言っても、これも当時はまだ新しい表現だったのかしら。


知的階級が地上で豊かに暮らし、それを支えているのが地下で働く労働者階級。

2020年代になっても、なお加速し続けている搾取構造を、物理的な位置を使って寓話的にビジュアライズしている点が面白いところで、
地上の潤いのために犠牲になっている地下の存在が「存在しないもの」のように無視されていることがよく分かります。


指導者だったマリアが、(偽物とはいえ)俗物に堕ちる様子はエロい。

そこで出てくるのがまさかのYOSHIWARA!
美的センスの高いフリッツ・ラングに外観を認められるほどの吉原遊郭とやらを観光してみたかったものだよ。観光ね。



本作が描いている100年後の未来都市(2026年)がまさに今日なわけで、都市の光景だったりストライキだったり格差社会だったり社会の分断だったりアンドロイドが生まれたり………現代と似ている世界が描き出されている点はとても興味深い。

100年前に描いた問題が今なお生きているということは、これはもう資本主義で人間やってる以上、末代まで付きまとう課題なのでしょう。

これに対しては、本作の中に一応の答えが用意されていました。
バベルの塔の例えでも出てきた「心」ですね。

仕組みや技術によって分断が起こったとしても、最後にそれを解決するのは「人間らしい心」だというメッセージ。

綺麗事のように聞こえたとしても、人間らしさを放棄したら物事は悪化していくだけだということは、多くの人がぼんやりと心の中で理解できているような気がします。

2020年代はAIが進化していて、仕事を奪われることに戦々恐々としている人がたくさんいます。
これもまた「人間性」という強みのみが乗り越えられるようになっていくんじゃないかな。


さらに、本作公開時点から見ると「ほんの僅か」だけ後の未来である「ヒトラー」の存在と、それに浮かれる国民をも予言しているように見えるところに、もう一つの驚きがありました。

アンドロイドマリアはヒトラーで、労働者は国民。
扇動されやすく、熱が冷めると熱狂していたはずの対象を「私、違うから」と他人事のように断罪し始める。

ドイツ人は自らの国民性を早くからそのように自覚していたんじゃないかと思うほどです。(正直、日本人も変わらないと思うけど、それはいったん置いておく)

それは、ブリキの太鼓での国民の描かれ方と同じ。



ロトワングはマブゼ博士でしたね!
相変わらず、顔の破壊力と凄まじい存在感を放ってて好き。

マリアを追いかける時に、キョンシーの原型みたいになってたのは、ちょっと笑いましたわw


そして、実質二役を演じ分けたマリア役の女優さんの演技!
イスケ

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