こなつ

ソン・ランの響きのこなつのレビュー・感想・評価

ソン・ランの響き(2018年製作の映画)
3.8
本作が長編デビュー作のレオン・レ監督によるベトナムの作品。

13歳でアメリカに移住した監督がベトナムに戻り、自分が知っている80年代のベトナムを描き、子供の頃大好きだったベトナムの古典芸能「カイルオン」を題材にした作品を作りたかったという想いから出来上がった「ソン・ランの響き」。
ソン・ランとはベトナムの民族楽器で「カイルオン」の舞台には欠かせないもの。
今回この作品で初めてその音色を聴いた。

80年代のサイゴン(現ホーチミン市)が舞台。借金の取り立て屋ユンは、ベトナムの伝統歌舞劇「カイルオン」の花形役者リン・フンと運命的な出会いを果たす。初めは反発し合い、接点のなかったはずの2人だったが、停電の夜にリン・フンがユンの家に泊まったことがきっかけで心を通わせて行く。実はユンはかつてソン・ランの奏者を志したことがある。一見対照的だが、共に悲しい過去を持つ二人は孤独を埋めるようにひきつけ合う。ユンが漸く人生のやり直しを決心した時、ふたりの物語は悲劇的な結末へと突き進んで行く。

監督が同性愛者であることをオープンにしているし、「ボーイ ミーツ ボーイ」2人の男性の愛の物語みたいなことがポスターに書かれていたが、はっきりとした描写は出てこない。観る人の解釈に委ねているような感じを受け、私は2人の境遇からどこか友情を超えた男同士の絆みたいなものを感じたのだが。

物語の大半を占める「カイルオン」というベトナムの古典劇の独特な節回しが印象的で面白い。中国の京劇に似ているような感じだが、ベトナムではドイモイ政策以降外国の文化が急速に入ってきて、80年代はカイルオン最後の時代とすら言われているらしいので、貴重な再現映像だ。そのカイルオンを彩るソン・ランの響きと共に、映し出される80年代のサイゴンの街の様子の哀愁漂う構図にも目を見張る。古い街並み、古いアパート、古い劇場、写真家としても活動している監督が描き出す光が何とも美しい。

80年代のベトナム、生活が安定していなくて、どういう方向に変わっていくのか分からなかった時代、カイルオンが庶民にとってはこの上ない楽しみであった様子、古き良きベトナムの伝統文化を垣間見ることが出来て楽しかった。

主演のリエン・ビン・ファットは、映画初出演ながら、刹那的な雰囲気の漂った魅力的なユンを好演。
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