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足跡はかき消してのmerrydeerのレビュー・感想・評価

足跡はかき消して(2018年製作の映画)
3.3
従軍経験が原因で社会生活に適応できず、娘と森の中でホームレス生活を送る男性親子2人を中心に物語は展開される。

いわゆる普通の社会生活に戻る機会が幾度か訪れ、娘はその新しい生活に順応する事に少なからず希望を見出すが、父は(詳細には描かれないが)過去のあらゆるトラウマに支配され、どうしても通常のコミュニティに留まる事が出来ない。
それまで恐らくお互いの存在が全てであったであろう強い親子間の絆は他者が介在する事で徐々にすれ違っていく。

新しい他者とのコミュニケーション、経験に対して安らぎが芽生える娘と、苦しさに襲われる父、と言う余りに残酷な意識の違い、そして最後に訪れるそれぞれの決断は、そうした親娘両名の複雑な感情の機微を見事に表現する演者の名演も相まって強烈な無常感を覚えます。
仰々しく悲劇を演出することは無く、終始、静かなトーンで物語は展開されますが、繊細な脚本や映像、そして真摯な演技とで、コチラの感情を思い切り揺さぶってきます。
批評家の評価がすこぶる高いのも納得な力作ですが、個人的にはフロリダ・プロジェクト等と同じく、心に残って何度も観たいし、皆んなにオススメしたい大好きな作品!とも言い難い、美しくもヘヴィな一本でした。
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