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ライトハウスのmerrydeerのレビュー・感想・評価

ライトハウス(2019年製作の映画)
3.4
1890年代のニューイングランドの孤島を舞台にウィレム・デフォー演じるベテラン灯台守とロバート・パティンソン演じる新人灯台守の交流の日々が描かれております。

舞台も登場人物もミニマルで、2人以外の他者の介在はほぼなし。(ほんとにそうか?)
片や横柄で高圧的なベテラン、片や無口で徐々に訳ありな過去も垣間見えてくる新人という登場人物の性格の対比があり、そもそもこの時代にモノクロに加えて敢えてスタンダードサイズの画角で不穏な雰囲気の閉鎖空間を映し出しながら進行するストーリーは、仮にウィッチの監督作品という前情報がなかったとしても碌な事が起こらなさそうな意向が嫌でも汲み取れることでしょう。

鑑賞後に監督のインタビューも読みまして、敢えてのモノクロ、スタンダードサイズ画角はもちろんのこと、撮影手法から音響まで作品としての仕上げに対する徹底したこだわりへの情熱を語っていて、その情熱は観賞すれば間違いなく作品の世界観を演出するために一役買っていることが分かります。
さながらヒッチコックのクラシックムービーを見ているような錯覚に陥る時代錯誤な不気味さが強烈に視覚、聴覚を刺激してくるのです。
そして、「古い時代の映画の雰囲気を出すためでなく、その時代の雰囲気を生み出すためにこだわった手法」と言う思想は目から鱗です。

2人の灯台守の衝突や酩酊状態から生まれる奇妙な交流が繰り返し描かれ、舞台の閉鎖感と中盤から訪れるシチュエーションで作品が持つ狂気が加速していく。
登場人物の背景にまつわる伏線を覗かせつつ、それを回収して鑑賞者をハッとさせる事に重きは置いていない、と言うか明確な起承転結すら希薄ですが、それがかえって支離滅裂っぷりや精神錯乱感を生み出してるような。
この辺の不条理感はモノクロなのも相まって鉄男やイレイザーヘッドみを個人的に感じたり。

ウィッチ同様A24のダークサイドフルスロットル、娯楽として消費する事はあまりに困難な悪意に満ちた狂気と歪んだ美学が暴発する一本。
ウィッチはちょっと息苦しさが過ぎる気がして、個人的には鑑賞後にしんどさを覚えましたが、こちらは監督の舞台設定を重んじた前述のこだわり手法と主演2人の怪演も相まって非日常的な空気に浸るにはうってつけの魅惑的な没入感を覚えます。(と思いきやストーリーのベースは実話という人間の業の深さよ…。)

結局、劇場では見逃してしまい、伊藤潤二のあらすじ漫画掲載のパンフレットも買えずじまいなのが今更悔やまれる。
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