荒野の狼

陽のあたる坂道の荒野の狼のレビュー・感想・評価

陽のあたる坂道(1958年製作の映画)
4.5
今はもう「山の手」という言葉は耳にする事もなくなったが、田園調布を頂く多摩川に沿う周辺にそのエリアがあった。江戸情緒を残す庶民的な下町とは対照的な、新しい趣きを持つ洋風(和洋折衷)な生活スタイルは、東京のシンボルでもあったし、田舎者の憧れでもあった。
この視点を踏まえて観ないと、なんとも滑稽でスカした映画だと思われるかもしれないが、当時一世を風靡した石坂洋次郎原作による日活映画のこの一連の作品群は、そんな独自の「山の手」風土でもって作り出されたフィクショナルな物語であり、虚構とはいえこの作品は確かに存在した「山の手」という独自の東京の一面を伝える貴重な記録でもある。もちろん「下町」との対比もバランス良く描かれており、それも見所である。ストーリー自体はどれもみな最高に面白いし、3時間30分という2部構成のこの作品も例外ではない。長さを忘れて飽きる事なく楽しめる事請け合いで、しかも初っ端からハマる。
それはなぜかと言えば、内情は別にして少なくとも表向きは、男は男らしく、女は女らしく、母は母らしく、それぞれが各自の「らしさ」を信条として描かれているからである。「らしさ」が少しも胡散臭くない時代だったのだ。
同じリッチでも、「山の手」にはタワマンの様なビンボー臭さは無かった。
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