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羅生門のhikarouchのレビュー・感想・評価

羅生門(1950年製作の映画)
3.7
まずこれだけの作品が、戦後たったの5年で出てきていることに感服する。

後に「ラショーモン・アプローチ」と称される、同じ場面を複数の語り手によって何度も再現するアプローチの先駆け。そのたびに、観客は共感を揺さぶられる。ここで重要なのは、登場人物誰ひとりとして本心を独白しないこと。人が語ることが事実なのかなんて、誰にも、本人にすら分からない。事実は一つだが、真実は人の数だけあるって、菅田将暉も言ってた。
(ただ、冒頭の志村喬たちの「わかんねえ~わかんねえ~」はだいぶ違和感あった。当事者の言い分が食い違うことが、そんなに不思議かね・・笑)

元の脚本に対して黒澤が書き加えたというラストは、一部には批判されることもあったみたいだけど、僕にはとても好ましかった。あの肩越しに「羅生門」が映るラストショット、かっけええーー!

今作を見ていて一番関心したのは、撮影・ライティング。これ森の中のシーンはロケーション撮影なのに、まるでスタジオで撮っているかのように完璧に光が当たっており、白黒の古い映像でも非常に見やすい上に、単なる映像ではなく映画としての品格を感じさせる。「鏡照明」と呼ばれる工夫によるものと後から知って、合点がいった。

羅生門に降りしきる雨の量の凄まじさも印象的。しかもこれ、雨がバックの曇り空に溶け込まないようにするため、水に墨汁をまぜているらしい。CGIに頼れない時代には、頭を使って様々な工夫をしていたんだろう。

そして三船敏郎はめちゃくちゃカッコいいな。こんな無茶苦茶な役どころでもカッコいいんだから異常よ。彼だけでなく、志村喬はじめ役者陣はみんな演技も良いし顔も良かった。

荒々しい殺陣も圧巻だった。小綺麗ないわゆる時代劇な決闘とは違う、本気の殺し合い。役者自身が実際の戦場を経験しているからか、命の取り合いに生々しさがあった。

この作品は、Wikipediaの充実ぶりが凄まじくて、映画本編の添え物として最高。特に気に入ったエピソードはこのあたり。興味ある人は全文読むことをオススメする。

「本作に出演したかった京は眉を剃り落してメーキャップテストに現れ、その熱意に打たれた黒澤は京の出演を決めた。」
→ちょうど先週放送された「鎌倉殿の13人」第7回で、熱意を示すために眉を剃り落とすシーンが出てきてびっくりした。昔の人は気合い入れると眉毛を剃り落としがち?

「ベネチア国際映画祭授賞式でグランプリにあたる金獅子賞を受賞したが、黒澤は出品されたことすら知らず、日本から関係者は誰も出席していなかった。それどころか授賞式には日本人すらいなかったため、映画祭関係者はヴェネツィアの街で受取人にふさわしい人を探し回り、たまたま観光で訪れていたベトナム人男性を見つけ、彼に金獅子像を受け取らせた。」
→この話すごすぎ。授賞式バックレてるのもどうかと思うが、同じアジア人ってだけでベトナム人引っ張ってくるアジア人軽視も今だったら大問題だろうね。おおらかな時代だ。

「大映社長の永田は、受賞報告を聞いて「グランプリって何や?」と聞き返したという。永田は本作に批判的な態度を取り、映画祭出品にも無関心だったが、受賞後は手のひらを返したかのように絶賛し、自分の手柄のように語ったため、周りから「黒澤明はグランプリ、永田雅一はシランプリ」と揶揄された。」
→昭和のこういうギャグ好き。
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