荒野の狼

太陽の塔の荒野の狼のレビュー・感想・評価

太陽の塔(2018年製作の映画)
3.0
「太陽の塔」は2018年の作品。前半は岡本太郎自身の言葉・思想・経歴を紹介しつつ太陽の塔の制作・内部を紹介するもの。後半は、太郎が考えていたであろうことを29名に及ぶ人物のコマ切れのインタビューをつないで想像するもの。多くの人物の短いインタビューの中のセリフをうまくつないではいるが、太郎に関係のない話が多い。太郎の思想・哲学は、既に太郎自身の著作が多数あり、これから明らかであるが、出演者の中で、これをうまく紹介しているのは民俗学者の赤坂憲雄。
後半では、「自発的隷従」の考え方を紹介している部分は興味深く、これが現代の日本にあてはまるとしている点は納得。しかし、「自発的隷従」という言葉自体は、「太郎自身は触れていないが、太郎が知ったら共鳴したであろう」という発言がでてくるあたりから、本作は横道に完全にそれてしまう。この後に登場する他の人物は、自分たちの勝手な太郎の思想を想像しているに過ぎないものが多く、太郎の思想の理解に本作は第一級の資料とはならない。たとえば、太郎が太郎と関係のない南方熊楠に関するインタビュー談話が入ったり、熊楠の粘菌研究と、太陽の塔の一階にあるアメーバを同一視したり、太郎と直接関係ないものを製作者の思い入れで、あたかも両者が関連があるかのように紹介しているのはいただけない。製作者が勝手に太郎と、色々なものを関連付ける必要はなく、太郎自身の著作を紐解けば、太郎が自分の作品以外に何を重要視していたか、そこから何が生まれたのか、などは、想像ではなく、事実として列挙することができるので、本作の素人の手による妄想は科学的・学術的には不毛である。
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