荒野の狼

チェ 39歳 別れの手紙の荒野の狼のレビュー・感想・評価

チェ 39歳 別れの手紙(2008年製作の映画)
4.0
『チェ』(Che)は、革命家チェ・ゲバラの伝記映画で2008年の4時間30分の作品。「チェ 28歳の革命」(The Argentine)」と「チェ 39歳 別れの手紙』(Guerrila) 二部に分かれており、それぞれオープニングとエンディングはあるので、独立した映画として鑑賞できる。第二部はボリビアでのゲバラ。ボリビアには中年男、ラモンに変装して入国するのだが、これが現在残っているゲバラの変装写真とそっくりのメイクアップ。ボリビアの入国前に、ゲバラが家族と最後の別れをするシーンでは、第一部のアレイダ・マルチが短い時間登場する。しかし、セリフも少なく髪型も第一部と異なっており、この役を同じ俳優カタリーナ・サンディノ・モレノが演じているのがわからないくらい(よって第一部のアレイダ・マルチがゲバラの妻になったことをわからない視聴者も多いのではと思われる)。
なお、本作の原作はゲバラのボリビアでの日記であるが、その序文はフィデル・カストロが書いており、ゲバラの筆跡の解読には妻のアレイダ・マルチの協力によって実現されたとしている。この中でカストロはゲバラの思想として次のものを紹介している。「どの時代でも、どのような事情でも、たたかいたくない口実というものは、いつもふんだんにあるであろう。けれども、それはけっして自由を獲得しないたった一つの道となるであろう」(ゲバラ選集4,p214「ボリビアでのチェの日記 序文」)。
ボリビアのゲリラ戦は過酷な状況が描かれるが、紅一点はタニア(=タマラ・ブンケ)役のフランカ・ポテンテだが、こちらも実在の人物にそっくりのメーク。第二部は、ゲバラの思想・哲学などが示されることはきわめて少なく、喘息に常に悩まされ、現地の住民にもボリビア共産党書記マリオ・モンヘにも協力を得られない、ひたすらゲリラ隊の全滅に向かっていく暗い展開。
救いのないような第二部であるが、DVD特典映像のスタジオジブリ プロデューサー鈴木敏夫とのインタビューでスティーブン・ソダーバーグ監督は、チェは40年早すぎたが、2006年にボリビアの大統領になった先住民出身のエボ・モラレス大統領は就任演説でチェ・ゲバラに何度も触れており、ゲバラの遺産は現在の中南米に生きているとしている。

映画の第一部と二部、映像特典の三枚のDVDからなるコレクターズ・エディションには戸井十月監修の48ページのブックレットが付属しており、戸井のエッセーでは、ジョンレノンに、「あの頃、世界で一番カッコいい男だったp4」と言わせたと引用。また22ページの「ゲバラ 39年の生涯」はゲバラの一生をうまくまとめている。この中では1960年10月に中国に訪問し借款協定を結んだ際に、周恩来が誠実に対応し、借款の覚え書きにあった「無私の援助」という言葉を削りたいと言った。「なぜなら、この援助には、経済的になくても政治的な利害がある。キューバは反帝国主義闘争の最先端にいるからだ。ただ“借款”という用語は形式的なものであり、なんらかの事情で支払いができなくても問題ない」。周はそう明言したp19.また、同ブックレットは2ページでゲバラ関係の書籍とDVDを紹介している。
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