荒野の狼

チェ・ゲバラ&カストロの荒野の狼のレビュー・感想・評価

チェ・ゲバラ&カストロ(2002年製作の映画)
1.0
オリジナルは2002年にアメリカのShowtimeが制作したTVミニシリーズで3時間20分のキューバの政治家フィデル・カストロの半生を描いたタイトルは「Fidelフィデル」。

私は「チェ・ゲバラ&カストロ」と言うタイトルのDVDを購入したが、こちらは2時間の短縮版と知らずに購入してしまった。長めのバージョンは英語のものは2時間30分のものがYouTubeにアップされていたので視聴したが(「Fidel」と「Showtime」で検索)、イタリア語でアップされていた完全版と比較すると細かい場面がカットされているのがわかる。

2時間版でカットされている重要シーンはラストシーンのカストロの独白で、「1959年以前の米国のキューバに対する政策ただひとつ、搾取すること。1959年以後は、破滅させること。こんなものが民主主義といえるのか?」という内容。一方、2時間版は、大半の時間をカストロがキューバ革命で演じた英雄的な役割を示した後、最後のエンディングで近現代のキューバの政治・暮らしが悲惨な状況を招いており、米国への亡命が多いというテロップが流れて、結局カストロを非難する形になっている。オリジナルのカストロの独白は、この後に入っており、本当のエンディングのメッセージで強烈な米国の避難になっており、このシーンの有無で映画のメッセージが異なることになる。

他に、2時間版と2時間30分版を比較して、カットされていた重要シーンとしては、最終盤のセリア・サンチェス(演じたセシリア・スアレスで本人そっくり)が1980年に59歳で肺癌で死亡する直前のカストロとの最後の会話と、革命後のハイデ・サンタマリア(演、Alejandra Gollas)がカストロから離れていくシーン(サンチェスの死後まもなく1980年に57歳で自殺したことはエンディングで説明)。

本作の魅力の一つは、映画「モーターサイクル。ダイアリーズ(2004年)」でチェ・ゲバラを演じたガエル・ガルシア・ベルナルが、チェ・ゲバラを演じていること。2002年の制作の本作ではゲバラの死までが描かれているが、その二年後に、ガエル・ガルシア・ベルナルはゲバラの若い時期を演じたことになる。

本作はドキュメンタリータッチで描かれ、カストロとキューバ革命の歴史がわかるという点で優れている。キューバ革命を単に美化するに終わらずに、厳しい現実も描かれている。とくに革命成立後に、ゲバラが革命の裏切り者は処刑すべき発言する場面は、行き過ぎの感を感じる視聴者はいるだろう。しかし、この理由として、ゲバラは、裏切り者を生かしておくとマイアミに逃げてCIAと手を結び、国家を転覆しに戻ってくるから、と発言しており、これは南米諸国などでゲバラが目撃していることでリアリティがある。ちなみに、本作でゲバラがボリビアで殺された場面では、CIAの関与が疑われている。

1965年にチェ・ゲバラがアルジェリアで2月25日にソ連を非難する演説シーンがあるが、ゲバラ選集4掲載の「アルジェでの演説」の全文には、本作にあるものと同一のソ連批判の文言はなかった。同選集によると、1965年アジア・アフリカ人民連帯機構会議で1965年2月24日のゲバラの演説が相当する。日付が異なるのは米国時間とアルジェリアの時差によるかもしれないが、内容は、ゲバラの実際のスピーチの以下の部分の行間に含まれる意味合いをはっきりさせた形と考えられる。

「価値法則とその産物である不平等な国際交易関係が後進諸国に押しつけている価格で互恵貿易を促進することなどを、これ以上語るべきではない。二つの国家間で、こうした関係ができあがるなら、社会主義国といえども、見方によっては、帝国主義的搾取の共犯者とされても仕方ないだろう。社会主義国は、西側の搾取国との暗黙の共犯関係を清算する道徳的な義務をもっている。(ゲバラ選集4,p164」

しかし、この演説では、キューバはソ連・中国とは有利な協定を結んだことを述べている。軍事援助に関してもソ連・中国は、共通の敵(帝国主義者)を撃つたべ無償の供与をしていると述べている。ただし、この直後には「われわれだけでなく、すべての人民が同じ扱いを受けなくてはならない。(ゲバラ選集4、p169)」と述べているので、経済面でも軍事面でも、ソ連ないし中国が、後進国との対応において米国と同様であると非難しているともとれる。

カット版では、エンディングを変更したことで、「歴史修正主義」の映画になってしまった。映画自体には高得点を与えたいが、DVD製作者(カット版製作者には最低点を与えざるを得ない。完全版の販売・配信が望まれる。
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