炭酸煎餅

ダンケルクの炭酸煎餅のレビュー・感想・評価

ダンケルク(2017年製作の映画)
3.8
「オッペンハイマー」を観て、"ノーラン監督の歴史もの"を語るならやっぱりこれも押さえておくべきだよね、と思って長らくの心の積み映画棚から下ろしてみました。
ノーラン作品だし史実ネタの戦争映画だしでてっきり最低3時間はあると思い込んでたのが後回しになってた理由だったんですが……こんな普通の尺の映画だったんですねこれ(1時間46分)。

浜で迎えの艦を待つ兵士を描く「陸」の「1週間」、徴発された持船を自ら操作して作戦に加わった民間船船主を描く「海」の「1日」、撤退支援のため上空で敵機と戦うパイロットを描く「空」の「1時間」というスパンの異なる3つの時間軸での出来事が描かれるのですが、「オッペンハイマー」同様にこの3つの視点をあまり細かく明示せずに(というか各パートの最初で「陸 1週間」みたいに表示するだけ)行ったり来たりする構成はやっぱりちょっとトリッキーで分かりにくくなっていたような気はします。まあ本作では多分「オッペンハイマー」とは違い、先(映画のタイムカウンター上で)に出たシーンの意味が後から明かされる、という「問と解」の構図を狙っての事かなと思うので、オッペンハイマーとは構成は似てても意図は大分違うとは思うんですが。

またこちらは舞台背景自体は史実でも人物やストーリーの方はフィクションであるため、オッペンハイマーと比べればかなり「物語」としては見やすい作品になっているなと感じました。
もっともフィクションとはいえ「実物」にこだわりを持つノーラン監督らしく、茫漠とした風景の寒々しさや戦闘機・艦艇の映像的な迫力は実感を持って伝わってきますし、敵(ドイツ軍)の姿をほぼ映さず、情感を盛り上げるような演出はせずにただ淡々と「事実」を追うようなスタイルは地味ながらも「死」が隣りにある戦場にある人々の冷え冷えした心境を映し出していたように思われました。

ちょっと調べてみると考証的には史実よりも伝説的な表現をあえて採用したらしい所があり(実際には撤退した兵の7割は防波堤を桟橋代わりに直接駆逐艦に乗り移って脱出しているらしいです)、監督自身も言っている(らしい)ように「戦争映画というよりサスペンス映画」という風合いの映画なのかもしれませんが、エンタテインメントなりにダンケルクで兵士が置かれた状況を追体験できる作品なのではないかと思います。
再上映とかあったら劇場の音響とスクリーンで観てみたいかも……。
炭酸煎餅

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