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黒い雌鶏のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

黒い雌鶏(2015年製作の映画)
4.0
[ネパール、視界の外側にある戦争] 80点

傑作。ミン・バハドゥル・バム長編一作目。ベルリン映画祭予習企画。2001年、ネパール北部の小さな村。この年は、1996年から続く内戦が短い停戦に至った年でもあり、王族殺害事件が起こった混乱の年でもあった。村にはカーストの異なる二組の姉弟がいた。結婚を間近に控えたウジャルとその弟キランは庄屋の子供で、最近母親を亡くしたビジュリとプラカシュは不可触民の子供だった。キランとプラカシュは仲良しなのだが、特にキランの家族はプラカシュと仲良くすることを嫌がっている。そんな中で、プラカシュは最近亡くなった母親が遺した雌鳥を育てることを心の支えとしていたが、ある日飲んだくれの父親が売り払ってしまい、取り戻すためには新たにお金を集めなくてはならない…云々。政府軍からもマオイストからも蹂躙されつつ、それらから最も縁遠そうな村人たちという関係性はオラフ・ノイラント『Nest of Winds』にも似ている。同作はソ連とレジスタンスに翻弄される牧場主を描いているが、どっちがどっちだかよく分からず、最終的にどっちも同じであるという描き方までそっくりだ。そんな内戦から"縁遠そうな"村人たちの生活と戦争の関係性は、まさに"雌鳥を取り戻す子供の冒険"と重ねられており、終盤にかけてグロテスクな形で混ざり合っていく。"縁遠い"なんてことはなく、すぐ近くの裏山で起こっていたのだ。また、空間造形も素晴らしく、特にプラカシュの幻想シーンはアミット・ダッタとかインド芸術映画の香りがするフレーム内フレーム、或いは神話絵画的な構図でとても良い。徐々にズームアウトする落ち着きのないカメラワークも、ここでは"いま見えているものの外側"にある戦争を提示する意味で重要な意味を持っている。
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