SCALA

沙羅双樹(しゃらそうじゅ)のSCALAのレビュー・感想・評価

4.2
映画とは虚構であるはず。それなのにあまりにも自然体すぎて現実と勘違いしそうになることがある。

幼い頃に双子のうちの一人が行方不明になってしまった家族を描いた話なのだが、神隠しに遭った兄というよりもあくまで喪失感を抱えながら生きる者たちの日常や恋愛が中心であり、その一部を覗き見しているような感じ。

「萌の朱雀」でもそうであったように事の顛末や詳細はほとんど説明が省かれ、俳優たちの演技も言葉を発するタイミングが被ったり一度で聞き取れなかったりする。言ってしまえば不完全。

しかしそれが何とも言えないリアリティーを生みだしている。

完璧な間で聞き取りやすく会話するのが当たり前の芝居ばかり観ていると違和感を感じるかもしれないが、実際の人間同士の会話なんてそんなもん。

ならまちの風景、BGM代わりの自然の音、印象的なバサラ祭りのシーンなど、奈良の町に根ざしたその場の空気や実在感を重視する演出によって、画面に映っているものだけではない感情や感覚がひしひしと伝わってくる。

彼らの日常を覗き見しているようだと上記したが、カメラは常に客観的な視点で撮られている。
生命の誕生で締め括られた後、魂が浄化されるように上空へ昇っていく最後のカメラワークなんかを観ても、やはり兄の視点だったのかなと後々振り返って思った。

ちなみに沙羅双樹は無常を象徴する花だそうで、釈迦が亡くなったときに2本の沙羅双樹が近くに植えられたことにちなんで名付けられたとされているらしい。

日本語の美しさと侘び寂びが感じられる良いタイトルだと思いました。


"人間、輝けるときに輝かないと"

"思いっきり輝かないといけん"
SCALA

SCALA