イスケ

吸血鬼ノスフェラトゥのイスケのレビュー・感想・評価

吸血鬼ノスフェラトゥ(1922年製作の映画)
3.7
「花を摘む」という行為って、「花を殺す」ことと一緒じゃないの?

元々そういう考えが自分にはあって、咲いてる花を適切な方法を取らずに、簡単にプチンと取り上げることには抵抗がある。

冒頭でまさにフッター青年が「妻のために」という純粋な動機でその行為を行ったわけですが、妻がそれを咎める風ではなく「可哀想」と言う。
これは、ノスフェラトゥが血を吸うことで命を奪う行為との対比に使われているような気がした。


個人的には、生きるために他者を犠牲にする食虫植物やノスフェラトゥと、
それとは違った動機で行ったフッターの殺生行為を比較した時に、前者の方が純粋な理由に見える。

さらに「自らを犠牲」にして命を差し出すエレンの存在。
これが冒頭の「可哀想」という言葉と繋がっていて、ひいては命への向き合い方を問うているのだと感じた。



吸血鬼が日光に弱い設定を採用したのも良くて、儚さもある化け物としてのノスフェラトゥの存在が良い。
エレンをチューチュー吸ってたら御日様浴びちゃったとか、棺桶自分で担いでるとかw
フッターにはない愛すべきポイントがいくつもあるんだよな。

応援上映があったら、ノスフェラトゥを応援するよね……。



キャラ造形や世界観の構築は素晴らしいと感じるし、忍び寄る影や風になびくカーテンや荒れる波のような恐怖を煽るいくつもの描写からは、今後に影響を与えるフォーマットとしての優秀さはしっかり伝わってくる。

ノスフェラトゥの手下のノックを追いかけまわすシーンは、ペストや吸血鬼によって起こった集団ヒステリー。
コロナ禍でマスクの買い占めに走る行動と何ら変わらんなぁと思いながら見ていた。

シンプルに伝染病のメタファーとして、吸血鬼を捉えることもできるわけですね。
イスケ

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