hikarouch

ラヂオの時間のhikarouchのレビュー・感想・評価

ラヂオの時間(1997年製作の映画)
3.2
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、三谷幸喜やるじゃん、となったので評判の良かった長編初監督作を。

いかにも舞台喜劇の映画化という感じで、これはほぼ演劇だね。ただ一箇所、ラジオブースとスタジオを隔てるガラスの反射を使った撮影は、映画的で良かった。

時代が違うこともあって(25年前!)、コメディとして笑えるところはほとんどなかったんだけど、意外にも仕事論として色々と考えさせられた。

出てくる主要キャラクターたちがどいつもこいつもしょうもなくて、プロフェッショナリズムのなさに特に前半は相当にイラつく。中でも、個人的には千本のっこのマネージャーのおっさんの「おれもそれは良くないと思ってたんだよ~」っていうキャラクターが最高にムカついた笑。ああいう、保身と底意地の悪さと無責任を具現化したようなオッサン、実際の仕事でも何人も会ってきた。

”三谷が初めて手がけたフジテレビの連続ドラマ『振り返れば奴がいる』の脚本が、三谷の意図に反して制作スタッフにシリアス調に書き直されて放送された経験から生まれた作品”ということで、三谷幸喜の怨念がこもっているのが伝わってきた。

プロデューサーの牛島もとにかく嫌なヤツで憎たらしいんだけど、でも彼は彼なりの、正しくはないかもしれないけれど、自身の仕事や結果へのこだわりというか、責任感を持ってやってはいるんだよね。自分の置かれた残念な状況や、無理難題、クソみたいな慣習を自覚して、文句を言いながらも、それ自体を覆す気概はなく、とにかくなんとかして仕事を無事に終わらせようとする。実際そういう人はたくさんいるし、その中でこちらはどう振る舞うかが問われることって多い。この映画の工藤のような行動ができたら良いが、実際にはそう簡単にはいかないしね。

この牛島と工藤がにらみ合うワンカットは、なかなか良い場面だった。

おそらく、自分の脚本をめちゃくちゃにされた主婦が実際の三谷で、些細な抵抗に成功する工藤が理想の三谷なんだろうね。

もっと気軽にケラケラ笑って楽しめることを期待していたが、意外にも苦くて考えさせられる鑑賞体験になってしまった。まあ苦かったのは、胸糞スーパーご都合主義映画なせいもある。(むしろそっちか)

ところで、後で知った英語タイトルが「Welcome Back Mr.McDonald」ってのは笑った。
hikarouch

hikarouch