雨虎

ドラえもん のび太の宇宙小戦争(リトル・スター・ウォーズ)の雨虎のネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

ドラえもん作品の中では『スター・ウォーズ』のオマージュ要素があり、馴染みやすいSFジャンルという気がする。
しかし、序盤でスネ夫とジャイアン、出木杉がプラモデルを使って特撮映画を撮影するという内容を取り込んで、全体的な雰囲気としては『スター・ウォーズ』というよりは『ゴジラ』や『ウルトラマン』のような巨大ヒーローの特撮という印象があった。

そして今作は政治に関する内容が強い。独裁政治、軍事政権、情報機関、クーデターと割合い大人な映画になっているような気がした。
そういった内容であるために、ピリカ星のピリカはアイヌ語で美しいという意味にも関わらず、クーデターのためかレジスタンスとの戦闘のためか、破壊された町並みが映ることもあり、およそ美しい星とは感じにくくなってしまっている。おそらくは皮肉なのではないかと思う。

内容としては『のび太の大魔境』と同じ構図だ。ある国の国難を外部の人物であるのび太たちが救うというものだ。今後もドラえもん作品の中ではこの構図がよく使われているため、分かりやすい。

現在の感覚からすれば情勢と重ねてしまう場面も多い。尤も、例の情勢はクーデターではなく、戦争ではあるので厳密には違うものの、やはりよぎってしまう。

今回の見所としては有能な敵ということが最も適当だろうと思う。
ドラコルルはドラえもん作品の中で1、2を争う有能さで、大統領を匿うのび太たちからどうやって情報を奪うか、どのように潜入するのか、相手(レジスタンス)の基地をどう見つけるか、侵入者の発見と素晴らしい活躍を見せている。
今までのドラえもん作品の敵はやや隙がある部分が多い。例えば『魔界大冒険』のデマオンは弱点である心臓を隠すだけで分からないようにする等の対策を全く取っていない。もし、デマオンがドラコルルであったのなら見つけられても問題ないようにもう一つセキュリティを施しているはずだ。
こういう最善を尽くす敵に対してどのようにドラえもんたちが戦っていくのかという点が非常に面白かった。
ほぼ無敵とも言える道具による強化を施されたスネ夫の戦車プラモデルに対しても解析し、弱点を見つけ虎視眈々とその機会を狙うという場面も見ていてどきどきした。

結果的にはスモールライトの効果が切れ、本来の大きさに戻り、相手から見たら巨人になって有利に戦うという特撮作品のような展開になったわけだが、そのぐらいでなければ勝利し得なかったぐらいの強敵だったということだろう。
実際、ドラコルルはスモールライトをドラえもんたちから奪うことで相手を弱体化するという抜け目のなさと、短期間の諜報活動による情報力によって重要な物品であることを理解していた。よって奪っているはずなのにどうして巨人が現れたのかという狼狽えこそがその有能さを物語っているのだ。
また、直接の勝利の要因はスモールライトの効果切れではあるが、ロコロコの長話による時間稼ぎというのも勝利につながったというのもドラえもんらしい面白さではある。
このドラコルルの有能さは敵だったからこそ、密度の高い内容となっていたのだと思う。つまり、もし味方にドラコルルがいたら、という仮定をたてれば、それは味方に出木杉がいることとほぼ同義と言って良いだろう。
ある意味ではもし出木杉が敵だったらというメタも盛り込まれているということなのかもしれない。
雨虎

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