針

レクイエム・フォー・ドリームの針のレビュー・感想・評価

4.1
ダーレン・アロノフスキー監督の作品を観るのは『ブラック・スワン』、『ザ・ホエール』に続いて3作目。
ニューヨークに暮らすハリーという青年と、彼の母親のサラ、彼女のマリオン、友人のタイロンという四人の人物を主人公にしたドラッグ・ムーヴィー。薬物の影響で人生にヒビが入っていく様子を互いのパートを交錯させながら描いていきます。これは面白かったです。

最大の特徴は、スタイリッシュとでも言うしかない(てか自分に語彙力がないので他になんと言えばいいのか分からない……)コテコテの映像表現見本市感と、それが音響(BGM&効果音)と合わさることで生まれているめちゃくちゃ軽快なテンポだと思う。
使われてる映像表現をてきとうに並べてみますと、画面分割、明るすぎる自然光的逆光?、早まわし、スローモーション、超現実的な幻想表現、ルーチン的行為の執拗な反復、カットの高速切り替え、超接写、四人の人物の行動を複雑に交錯させるクロスカッティング、俳優に取り付けたカメラで顔を映しながらの逃走シーン、魚眼レンズ?による画面のゆがみ、真上だの足下だのヘンな角度からの人物ショット、動作の過程の大胆な省略、一番肝心のシーンでの長まわし、などなど? ふつう何と呼ばれる技法なのか自分には分からないものも多いのですが、それらが映像の流れにぴったり寄り添った音楽と効果音によってめちゃくちゃリズミカルに展開していく、その感触が楽しい。

この映画の音は映像に対する「従」ではなくて、映像と渾然一体となってこのグルーヴ感を形作ってると思う。対等とまでは言えないにせよ、それ無しではまったく成り立たないぐらい重要な要素だろうなーと。
自分はヴァイオリンらしき弦楽器で奏でられているティッティッティッティッ♪ っていう軽快だけど妙に不安を煽り立ててくる音楽が好き。あとは食事のシーンで食べる音だけ響いて食べてる過程が省略されてるシーンとかね。章の区切れ目でガシャーンと唐突に響くシャッター音もいいですね~。まぁでも、ここが良いと局所的に言えるというよりは、それらが構成しているこの全体の感触よね。

さて、そうした軽快なテンポで語られる肝心の内容はきわめてダウナーで陰鬱です……。若い三人のぐだぐだドラッグ・ライフはこう言ってよければ非常にありがちなものではあって、まぁそうなっちゃうのも納得だわーという方へとガンガンビュンビュンに進んでいってしまいます……。逆に言うと、見れば誰でも「分かる」がゆえに一々立ち止まって事情を説明する必要のないものでもあるのかなと。そのおかげで映画のリズムを過度に阻害してないような気もする。
そしてその三人のヤク漬け物語💊💊💊に、老年に差し掛かりつつあるハリーの母親のサラのストーリーが混じってくるのがこの作品の大きな特徴でしょうかねー。自分は彼女にフォーカスする中盤のシーンで引き込まれ、あとは道行きのままに最後まで~という感じでした。他の三人がほぼそのまんまのストーリーな代わりにサラのパートはちょっとだけドラマ性が強くて、彼女のおかげで全体にほどよい厚みが生じてるような気がします。でもってここが、単純ながらも確かに気持ちは分かるわなーと思わざるをえない物語なのでなんともはや……。演者のエレン・バースティンがすごかったですねー。

あとは終盤のテンションの加速っぷりもすごい。四本の筋を互いに交錯させながらひとつの映画へとまとめていく手つきの精度?がかなり高いのかなーというふうに自分は思いました。やっぱ一体感の最大の理由は「音」な気がする。あとはまぁ、あまりにも身も蓋もないストーリーから漂ってくる「人生は悪い冗談」感が大好きでした! 話は暗すぎるけどおすすめです。

一応中盤以降の展開についてはコメントへ。

ちなみにヒロイン役のジェニファー・コネリー、自分もどっかで見たことあるなーと思ったら『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』でした。あの天使みたいだったデボラが、目元の感じはそのままにこんなジャンキーに成長するとは……! というのは冗談です😝
針