針

赤い影の針のネタバレレビュー・内容・結末

赤い影(1973年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

以下非常にネタバレありなので未見の方は読まないほうがいいかも。







自宅の庭にある池で娘が溺死してしまった夫婦が、傷心旅行で行ったベネチアで不可思議な事態に見舞われるというお話。ユーネクストの説明では「オカルト・スリラー」になっていてそうなん? と思ったんだけど、怪異に襲われるホラーではなく、かつ、心霊や予言は現実に存在する世界観で、たしかに一番フェアな表現かもと思いました。
自分的には、映像とトーンがめっちゃすばらしかったんだけど、ストーリー的には若干肩すかし感を覚えたというのが正直なところです……。

赤いレインコートを着た少女が溺死するまでの冒頭シーンがまずすごい。外にいる兄妹と家の中の夫婦を交互に映しながら不安を煽り立てていって、でも少女が水に落ちる瞬間は描かないで結果だけ見せるところがウ~ン10000点という感じ。教会を撮った写真にうつりこんだ赤いずきんの人物がニュワーンとにじむところとかもね。このへん言葉ではうまく説明できませんが、不穏と同時に非常に見応えのある映像という感じがしていい導入だったなーと。

この感じは映画全体にも一貫してる気がします。でもって、自分的には何を中心に撮ってるのかよく分からないショットがところどころにあって、それもスリラー/ホラーの雰囲気を高めていていいなと思いました。これは他のジャンルの作品だったら無駄に思えるかもしれないんだけどこの手の神経症的な映画にはとても効果的な気がする……。ベネチアのくすんだ黒・白・灰のブロックと、よどんだ緑色の水のあいまに赤いものがチラッチラッと映り込んでるのは絶対意図的よね……?

ストーリー的には、心霊に明るい怪しい姉妹の登場と、ベネチアをゆるがす連続殺人事件とが合わさり、物語上の焦点がどこで結ばれるのかどんどん分からなくなっていきます。
殺人鬼は姉妹なのかと思ったら違う、殺されるのは妻かと思ったら最終的には違う、船に乗った妻を見たと思ったらそれは現在の出来事じゃない、などなど、ドンデン返しがいくつも用意されていてとにかくオチが気になる構成。赤い服を着た娘のお化けかと思ったら人間だったというラストの真相も大変ひねりが利いてるのですが、でも自分はびっくりするとまでは行かなかったかなー。
理由は単純で、心霊&予言というオカルトの存在を前提にしているこの作品世界に自分はうまく入り込めてなかったからだと思う。主人公には霊感が備わっていて、すれ違う船の上に見た妻は自分の死を弔う未来の姿だったというのはすごい奇抜なアイデアだけど、それだとけっこう何でもありかもなーとはちょっと思ってしまったり……。

ただこれを言ったらそれまでなんだけど、おそらく作り手が伝えたいメッセージ&世界観と、こちらが期待して観ていたそれとがけっこう違ってたんだろうなーとは思います。展開とか雰囲気は王道のホラーないしはスリラーっぽいんだけど最終的にはエンタメな雰囲気に全然着地していなくて、ゆえにそこから遡って作品全体も枠組みは借りてるけどジャンル・エンタメとして作ってはいないんだろうなーと。まぁ厳密な違いとかはないので言ってもしょうがないことではあるし、むしろそれゆえにこそ唯一無二な感触の作品になってるという気もします。

これは一応、夫婦のかなしいすれ違い劇ってことなのかなー。どのみち暗く陰鬱なベネチアの雰囲気と少女の赤い影のイメージはそうそう忘れられなさそうです……。

冒頭もそうだし、中盤のセックスのくだりもそうですが、ふたつの場所とかふたつの時間軸のシーンを交互に映したり混ぜこぜにしたりという編集が多めで、これらのおかげでラストの走馬燈とかもまったく違和感なく展開できてる気がしました。
それと大使館の人とかは何を言ってるのかよく理解できなくて、振り返ってみるといろいろ謎が多い……。

ニコラス・ローグは以前『美しき冒険旅行』だけ観たことがあります。そちらも物語の構図はこれでええんかなーとはちょっと思ったんだけど、オーストラリアの自然や動物をちょくちょく挿入する映像表現はたいへん面白いし美しかった記憶……。もうちょい他の作品も観てみたい気持ちです。
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