針

インフィニティ・プールの針のネタバレレビュー・内容・結末

インフィニティ・プール(2023年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

久しぶりに友達と一緒に映画を観てきました。おかげで自分では観るつもりのなかったものを観れてよかったです。

内容を非常に下品極まりない言葉でまとめると、ミア・ゴスによる手コキで始まりミア・ゴスによる授乳で終わるスリラー、かなぁ。正直これはきびしいかなーと思いました……。おもに設定と展開が……。

南洋っぽい“未開”の島国に、奥さんを伴って旅行に行った作家が、同じく島に来ていたミア・ゴス夫婦に誘われて罪を犯し、その島独自の法律によって変態フェティシズムを開花させていく……というのがストーリー。メインアイデアになってる法律というのが超独特です。死刑を宣告された罪人に大金を払わせて彼/彼女のクローンを作り、分身を代わりに死刑にしてそのさまを見せることで、罪の責任を自覚させるという大変猟奇的なもの。観光ぐらいしか産業のない島国が外国人観光客から外貨を絞り取るためのルール、みたいに説明されてたような……。超淫靡なファム・ファタールたるミア・ゴスに導かれてアレクサンダー・スカルスガルドが完全に人生を踏み外すまでの物語と言えばいいのかな。


○自分が引っかかった部分
・絶対ダメではないにせよ、今どき南洋の島国を明らさまに“未開”の地として描くのはちょっとどうなのと。いやそうは描いてないと言われるかもしれませんが、アメリカやヨーロッパなどの“近代”国家では到底許されないであろうクローン技術の異様な使用法が認められている島国というファンタジー設定はその地を野蛮なものとして描いているとしか思えず……。それと後進国的に描かれている国でクローン技術だけは超発達してるというのも(数時間で生きた分身を作っていた?)、意図的に歪んだ世界として描いてるとは思うのですが違和感が無いとは言えず……。

・後半をもっと密度の高い物語としてやってくれればまだよかったのですが、実質ほとんど内容が無くなってしまっているのがなんとも……。たとえば島のディストピア設定をもっと突き詰めるとか、主人公をさらに暴走させて話を大きくするとか。上に書いた違和感はあってもけっこう色んな方向に面白くなりそうな設定なのに、後半はミア・ゴスを中心とした金持ちリゾート客たちが、クローン身代わり法のおかげで死刑にならないのをいいことにしょうもない犯罪を繰り返すだけの話になっていて、自分は正直飽きてしまいました。映画自体が90分ぐらいだったらまだイケた気もするけど2時間だと……。
また、ミア・ゴスの計略で主人公は何度も自分のクローンを殺すハメになり、その結果完全に自我が崩壊して元の生活に戻れなくなるのですが、その過程が地味なので自分的にはクローンという大きなSF設定にあまり見合ってないかなーとは思ったり。主人公の狂気をもっとパワフルに追求してほしかったなぁ。
(もっとも言うだけなら簡単なんですけどね😖)

・ヒロインであるミア・ゴスの目的意識がよく分からず……。主人公のスカルスガルドは売れない作家で裕福な奥さんに養ってもらってるんだけど、そんな環境では彼は男らしく生きられないとミア・ゴスは言い、彼を奥さんから引き離します。その後はスカルスガルドに彼自身のクローンを何度も痛めつけさせることを通して弱虫から一人前の男へと脱皮させる、みたいなことを言ってるのですが、どういう論理なのか自分には正直理解できませんでした……。それにミア・ゴスは奥さん以上に強い女性として描かれてるので、彼女に「教育」されてもやっぱり主人公は一人前の男にはなれないんじゃ?……と思って見てたら最後に主人公は赤ちゃんになってしまいました……。立ち直るどころか前より酷くなってるじゃん……。

・冒頭に書いたミア・ゴスによる非常にセクシャルな2つのシーンですが、何もそこまでやらんでも、とは正直。特に1つ目に関しては、モザイク付きの陰部&射精自体を直接画面に映してすらいるし。そういう性的な行為をやってるミア・ゴスを撮りたかったというのが本音では? と邪推すらしてしまう……。

・主人公が受け身であるこの映画は、実質ヒロインのミア・ゴスの魅力で成り立ってるかなーと自分は思ったのですが、逆に言うと彼女を抜いたら何も残らないのではないかと……。

・一応バカスリラーまたはバカホラーとして作ってる可能性も考えたのですが、それにしては最初の30分の導入パートが非常に丹念で、サスペンスが高まってく過程をじっくり描いていて見応えがあるのでどう見ても真面目に作ってるとしか思えず……。


○よかったところ
・展開はかなりガチャガチャしてるなーとは思いつつ、不条理なルールに支配された世界での理不尽な物語という感じはちょっとだけ良かったです。てかこの方向を推し進めてほしかった……。

・サイケデリック映像みたいな部分と、父親のデヴィッド譲り(?)の人体損壊シーンはけっこう見応えあったなーと。自分的にはこのへんが一番よかったです。

・画面の感触自体はどこを取ってもガッチリしてる気がしたので、内容さえもっとちゃんとしてればなぁと返す返すも……。

・眉毛のないヒロインのミア・ゴスがギャンギャン喚きながら銃をブッ放してるシーンは楽しかったです。主演のおふたりは普通に良かったんじゃないかなー。


○その他
・題名の「インフィニティ・プール」がなかなか出てこないのでラストはそこに行って終わるのかなーと思ったらそうでもなく。ラストショットで主人公がいる場所がそうなのかもと思ったんだけど、物語上の舞台というよりは無限=終わりのないプールみたいな象徴的なイメージを付与するための題名だったのね。

・自分はブランドン・クローネンバーグの他の作品は観てないので勝手な推測なのですが、もしかするとホントにやりたいこと(もしくは上手な部分)は父親のそれとは別なんじゃないか、という気もちょっと。処刑用クローンという異常な現実によって主人公の内面が変化していく過程を描いてはいるけど、それが“形態”へのフェティシズムから発しているかというとわりとそうでもないような……。いい意味での軽いスリラー的な感触のほうが強いかもと。

・終盤でミア・ゴスが、作家である主人公の小説をボロクソに貶した書評を音読するという酷いシーンがあります。ちゃんと覚えてないけどそこで言われてるのが「才能がない」だの「義父の威光でかろうじて成り立ってる小説」だのという文言で、もしかしてこれは監督がやけっぱちで捩じ込んだ自虐なのかと自分は勘繰ってしまいました……。違うならいいけど、もしもそうだったら何もそこまで言わんでも……と思う。
自分は父親のほうの映画もちゃんとは観てないけど、自分自身の訳の分からない妄想を目に見える形にして映画に突っ込んだ結果、かなり独自の味を掴んだ作家みたいなイメージで、真っ正面から対抗したり目指したりするのは誰にとっても分が悪いっしょと思っちゃうし……。
何にせよ、どこの世界でも世襲はつらいよねぇ……と勝手に思ったりしました。てんで見当違いでしたらごめんなさい🙏

同監督の過去作もそのうち観てみようかしら。
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