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ヤンヤン 夏の想い出の針のレビュー・感想・評価

ヤンヤン 夏の想い出(2000年製作の映画)
4.1
台湾の巨匠、エドワード・ヤンの遺作だそうです。邦題から男の子の体験するひと夏の冒険みたいな映画かと思ったらけっこう違った……

台北に暮らすヤンヤンという男の子と、彼の父・母・姉・祖母・親戚たちを中心に、人生のさまざまな局面を群像劇として写し撮った家族ドラマ、みたいな感じかな。

正直序盤はちょっと眠かったのですが、中盤あたりでいつの間にか引き込まれていて、それ以降はかなり心地よく観れました。んでもって最終的にはすごくいい作品を観たなーという気分になってしまったので、やっぱり映画はよく分からない……。

まず画角とテンポが非常に印象的。アップもなくはないんだけど、基本的に人物にはあまり寄らず、中・長距離の固定カメラでまわりの風景ごと長尺で人物の動きを撮ったシーンが多い。カメラが動く場合でも、歩いていく人物に合わせてゆっくり画角をずらす程度で、劇的な動きやアクション的な編集はほぼなかったと思う。
そうした動きの少ない遠目の絵がぽつぽつ並べられていくような感じで、キャラクターに感情移入して観るというよりは彼らの生活を外側から眺めてるような印象が強い。基本的にはドライな感触。
なので最初はどうなんかなーと思ったんだけど、これが淡々と積み重ねられていくうちにだんだん味が濃くなってくような気はしました。かくあるものをかくあるとおりに映してるような感じがするとでも言いましょうか。

お話自体はごくありふれたエピソードの連続ではあります。しかし楽しいよりはつらくてどうにもならない出来事のほうが多くて、ちょっと鬱々とすらしてるんだけど、なのにどうしてこれほど一回性の“生”に対する肯定感に満ち満ちた気持ちにさせられるのか、非常に不思議でした。
人間の一生のさまざまな段階にいるヤンヤンの家族たちを通して、3時間の尺の中に「人生」を封じ込めたような映画って感じ。自分は好きだなーこれ。

その他。
・次のシーンの音声を先に流しておいてからカットを切り替えるっていう形でシーン同士を繋いでる箇所がとても多い(ブリッジ?)。淡々としすぎてシーン同士の繋がりがバラバラになっちゃうのを防ぐためかな。
・ガラス越しのシーンもわりとあって印象的でした(窓の外の景色と、窓に映った室内の人物を二重写しにするようなシーン)。
・日本も出てきて、イッセー尾形がものすごい大役で登場します。
・個人的には前に観た『恐怖分子』ほどショットの強度にこだわったタイプの作品っていう気はしなかったんだけど「雷」のシーンはよかったなー。
・ヤンヤンよりも父と姉のストーリーの方が濃いんだけど、意外と彼が要所要所で全体を引き締めてるところはあるかも。車の中での質問とか、アノ写真とか、ラストとか。

あとはひとことだけコメントを。
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