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ファントマ対ジューヴ警部のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ファントマ対ジューヴ警部(1913年製作の映画)
3.4
[迷宮都市パリを縦横無尽に駆け巡る追跡劇、ファントマと時代の肖像②] 70点

本作品はフイヤード版「ファントマ」映画群の第二篇であり、小説第二巻『ジューヴ対ファントマ』を原作としている。

ジューヴとファンドールは怪しい医者とその手下の女を尾行し、ふたりはファントマを幾度となく追い詰めるが取り逃がす。やがてファントマの愛人であるベルタム卿夫人に辿り着いたふたりは彼女の屋敷に乗り込むが、すんでのところで屋敷を爆破される。生死不明というクリフハンガーだ。小説版は一冊で完結しているのでこのクリフハンガーが映画ならではだろう。

第一作で小説版から明瞭になったファントマ像が黒装束の登場によって再び不明瞭となるのが本作品の特徴であり、世に言う"ファントマ"像を映像で見せた最初の作品でもある。また、第一作では室内でのセット撮影だったものが本作品では郊外での撮影も増え、実際にパリを股に掛けるファントマの追走劇が幕を開ける。

また、本作以降小説版『ファントマ』の表紙を書いた挿絵画家ジーノ・スタラーチェによる影響が無視できなくなってくる。というのは、ファントマの一般的なイメージとして有名な第一巻の表紙は厳密にはスタラーチェの作品ではないものの、第二巻以降はスタラーチェがオリジナルで描いているからだ。そして、彼は作品の最も特徴的な場面を引用するのではなく、最も興味深い場面を引用するため(それはジャケ買いを誘発するための興味を引くように描かれているからだ)、フイヤードも印象に残って離れなかったのだろう。
第二巻の表紙は樽に入って転がるジューヴとファンドールであり、映画ではかなり唐突な展開になるもののフイヤードは必ず入れたかったらしい。これ以降の(フイヤード版以外の)ファントマ映画でも第二巻原作のものではほぼ必ず引用されている場面なのだが、ストーリー的には必ずしも必要ではない、というのが面白い。スヴェストルとアランが0(無)を1(文字)に、スタラーチェは1(文字)を10(絵)にすることで人々の記憶に残り続けたということだ。
ちなみに、第三作「ファントマの逆襲」では表紙絵の再現はないが、第四作「ファントマ対ファントマ」では黄金の小箱を拾い上げるシーン、第五作「ファントマの偽判事」では部下を鐘に閉じ込めて殺害するシーンはそれぞれ原作となる小説の表紙絵をモチーフに作られている。

原作の冗長さが目に余ることも多く、緩急の落差が激しいため、度々睡魔に教われたことは秘密ね。
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