こなつ

ミツバチのささやきのこなつのレビュー・感想・評価

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)
4.0
スペインの名匠ビクトル・エリセの長編デビュー作。1973年、監督が33歳の時の作品だが、日本で初めて上映されたのがその12年後の1985年。可愛らしい女の子アナのジャケ写が印象的で気になっていた。エリセ監督による31年ぶりの長編「瞳をとじて」を鑑賞して、50年後のアナと再会。デビュー作であり話題作のこの作品を是非観たいと思っていたところ、今回、「瞳をとじて」公開記念の特別上映にて鑑賞することが出来た。

1941年スペイン中部カスティーリャ地方の小さな村が舞台。6歳の少女アナとその家族の物語。血みどろの内戦が終結した直後、国土も人の心も傷を負い、農村にも荒廃した風景が広がっていた。

ある日、村に「フランケンシュタイン」の巡回映画がやってくる。6歳の少女アナは、姉イザベルから怪物は村外れの井戸のある一軒家に隠れていると聞き、それを信じ込む。ある日彼女がその家を訪れると、そこには謎めいた1人の負傷兵がいた。

父フェルナンドは養蜂場でミツバチの巣箱を点検し、母テレサは家で誰かに手紙を書いている。広々とした家に住み、お手伝いさんもいて恵まれた家庭環境に見えるのだが、両親の表情が浮かないのは内戦で敗れた共和派だったのか、母テレサはフランスにいる同志に手紙を書いていたのではないか、序盤はそんな事を思いながら観ていた。

友人と火を飛び越える遊びをしたり、死んだふりをしてアナを騙したり、ちょっとした仕草からもアナに比べて大人っぽさが見える姉イザベル。猫の首を絞めて引っ掻かれ、その血を口紅みたいに塗る姿はちょっと不気味だった。その点アナは、無垢で純粋。フランケンシュタインは、怪物ではなく精霊だと言う姉イザベルの言葉をすっかり信じてしまう。「私はアナよ」と言えば友達になれると思っている。少女アナの凛とした表情や真っ直ぐ見詰める眼差しが、純粋で美しくて目が離せない。

1人の少女を主人公に彼女が体験する現実と空想の交錯した世界を繊細に描き出した素晴らしい作品だった。家族4人の役名を演じる俳優の名前と同じにしたり、模型を使った独特な学校の授業風景、蜂の巣を連想させるハニカム構造の窓、井戸のある村外れの小屋、全てにこだわりを感じる。神秘的で優しい少女達の成長の物語に心震えた。
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