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わが青春のフロレンスのstanleyk2001のレビュー・感想・評価

わが青春のフロレンス(1970年製作の映画)
3.3
『わか青春のフロレンス』
原題 Metello メテロ
1970 イタリア

「誓うよ。もう二度と監獄には入らない」
「父と同じ。誓っても破るでしょ?」

甘ったるい邦題とは正反対のイタリア労働運動家一代記。カエルの子はカエル。活動家の血は争えないという青年の成長物語。

2024年1月29日。東アジア反日武装戦線のメンバーで銀座のビルのドアを爆破した桐島聡を名乗る70歳のの男が神奈川県の病院で胃がんのため死亡した。

東アジア反日武装戦線はコミュニストではなくアナーキスト(無政府主義)

たまたま観たこの映画は1890年代のイタリアを舞台にした無政府主義者の息子の物語だった。

原題「Metello」は主人公の名前。産まれて間もなく母は病死。息子メテロを育てると誓った無政府主義者の父は事故死。

メテロは田舎の里親に引き取られる。不景気のため里親一家はベルギーに移住しようとするがメテロは拒絶して両親の故郷フィレンツェ(フローレンス)へ向かう。

建築業で働くメテロは施主である美しい未亡人ヴィオラから誘惑される。

メテロは兵役につく。ヴィオラは兵役の間におそらくメテロが父親と思われる男児を産んでいたが別の男性と結婚していた。二人は別れる。

組合仲間が事故死して葬儀の行列でメテロ達が赤旗を掲げていたことを憲兵隊がとかめて争いになりメテロ達は逮捕される。

メテロ達が捉えられた監獄は街中にある。看守に交渉した家族達が塀の外から逮捕された夫や息子や兄弟の名前を呼ぶ。なかなか切ない場面だ。

家族のいないメテロの名前を呼ぶ声がする。葬儀で出会った亡くなった仕事仲間の娘エルシリア(オッタヴィア・ピッコロ)だ。彼女は父親の葬儀に参列したために逮捕されたメテロに同情したのだがメテロそれを愛情だと思い込む。

1年の懲役刑を終えて出所したメテロは強引にプロポーズしてエルシリアと結婚する。

賃金をめぐって施工主と労働者が対立してストライキになる。そのストライキの間にメテロの不倫を巡るエピソードや仲間を裏切る労働者などのエピソードを交えて映画は会社対労働者の激しい対立場面になだれ込んでいく。

ビルドゥングス・ロマンとしてなかなか面白かった。

そして「左翼活動家の愛の物語」という点で『ブーべの恋人』と主題が共通している。

映画のクライマックスの時代は1903年。イタリアが王国としてまとまってまだ50年ほど。ヨーロッパに広がった人権思想、社会主義思想が王制と対立する時代。

日本では明治後期。社会主義思想や無政府主義は大日本帝国と対立する思想だから厳しく取り締まられた。主義者は逮捕されて拷問を受けて殺されたりした。

イタリアではちゃんと裁判を受けて懲役刑にされている。基本的人権があるイタリアと人権思想がない日本との違いを感じる。

イタリア共産党は第二次世界大戦中レジスタンスとしてムッソリーニのファシスト党と闘ったから国民的支持がある。

だから『ブーべの恋人』やこの映画の様に王制やファシストと戦った左翼活動家が主人公になるのだな。

・フィレンツェの湿度を帯びた空気をソフトに捉えたカメラが美しい。どの画面も印象派の絵画の様な美しさだ。
・エンニオ・モリコーネの音楽も格調高い。

末期癌になり救急搬送されて「俺は爆破犯の桐島聡だ」と名乗り出た70歳の老アナーキストは何も言わないで死んでしまった。彼にも愛の物語はあったのだろうか?
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