『女経』(じょきょう)
1960(昭和35年)
大映
「この商売はちょっとくらい可愛いくらいじゃダメ。あたしくらいずば抜けて綺麗じゃないと」
この台詞を言った女優さんは確かにずば抜けて美しいから説得力がある。(ネタバレになるから女優の名前は書かない)
大映三大女優を主演にして大映オールスターが彼女達を支える華やかなオムニバス映画。
『女経』は作家村松梢風の三遍の小説を映画化したオムニバス。村松梢風は戦前たくさんの時代小説や伝記小説を書いたひと。『残菊物語』は何回も映画化された。孫が編集者でのちに作家になった村松友規(『私プロレスの味方です』『時代屋の女房』)
『女経』は村松梢風のメインの作品とは違う市井の女性を描いた作品。女の経とは何か?
「経」すじみちをたどる。過ぎてゆく。とおりみち。へる。
「経過・経由・経路・経歴・経験・経年」(weblio)
「女性のたどる人生」と言ったところだろうか。
第一話 「耳を噛みたがる女」
増村保造監督 若尾文子主演
若尾文子演ずるキャバレーのホステス紀美は川に浮かぶダルマ船が自宅の貧しい家庭に育つ。
都心のキャバレーで男達にドンドン金を使わせるが身体はなかなか許さない。男達から巻き上げた金を兜町の証券会社に持って行きある会社の株を買い続ける。
株を買っている会社の御曹司田畑正巳(川口浩)に紀美は惚れている。正巳も憎からず思ってはいるようだ。
貧しい家庭出身のホステスと大企業の御曹司の恋は実るのか、、、
微妙な心の揺れが切ないお話。
第二話「物を高く売りつける女」
市川崑監督 山本富士子主演。
流行作家三原靖(船越英二)は筆が進まず突然失踪する。とある海岸を彷徨う彼の前に謎めいた和服の美女が現れる。美女は寂れた一軒家に彼を誘う。
『雨月物語』や『ツィゴルネルワイゼン』を思い出す。何を考えているのか分からずしかも蠱惑的な美女に三原は惹きつけられるが、、、
クレジットされていないけれど市川崑の妻、和田夏十さんが実は脚本担当。原作を大幅に書き換えたそうだ。ツイストが効いたアメリカの短編小説みたいで面白かった。
第三話「恋を忘れていた女」
吉村公三郎監督 京マチ子主演。
お三津(京マチ子)は元芸者。旅館の若旦那の妻におさまるが若旦那が死んだ後は女将として旅館の業績を倍増させてスナックなども経営するやり手経営者となった。
ある夜、昔の恋人(根上淳)が訪ねてくるのだが、、、
次々と起きる出来事に的確に対応する京マチ子。仕事一筋に生きてきた彼女がふと思い出した昔の恋。夜明けの端に佇み思いに耽る姿にしみじみする。
エンドタイトルは芥川也寸志の音楽に乗ってアンクルトリスの柳原良平さんの軽快なアニメーション。なかなか洒落た作り。
途中で併映作品を変えてロングランしたようだからヒットしたんだな。