てつこてつ

道頓堀川のてつこてつのレビュー・感想・評価

道頓堀川(1982年製作の映画)
3.5
「青が散る」「泥の河」「螢川」「ドナウの旅人」「流転の海」「優駿」等で数々の文学賞を受賞した宮本輝による同名小説の映画化。監督は深作欣二。

大阪の繁華街・道頓堀を舞台に、19歳の純朴な美大生と年上の小料理屋の女将の純愛を軸に、彼らを取り巻く、ギャンブル稼業、夜の街で働く人々を描く群像劇。

1982年製作の作品であるが、この頃の松坂慶子は本当にノリにノっていて、日本を代表する映画女優と言っても過言ではないほどの大活躍。同年製作の、やはり深作欣二とタッグを組んだ「蒲田行進曲」はもちろん、国民的映画「男はつらいよ」でもマドンナ役に抜擢、その後、NHKの大河ドラマ「春の波涛」でもヒロイン役に選ばれるなど、まさに破竹の勢い。

美貌と演技力もピカイチだけど、本作でも真田広之と身体を重ねるシーンでは胸を曝け出すことを全く厭わないというプロ根性も相当な物。

彼女と恋に落ちる役どころの真田広之。この頃は、同時進行でジャパンアクションクラブの大スターとしての主演アクション映画なども撮影していたため体型面での役作りが困難だったせいか、繊細な心を持った美大生という役どころにしては、余りにもガタイが良すぎるし、19歳設定には若干の無理がある・・。

おまけに、ボサボサの髪形でGジャンにピチピチのGパンという出で立ちも「吼えろ鉄拳」そのままで、せめて衣装では、筋肉を隠すくらいの工夫してほしかった。ジャングルジムの天辺から飛び降りる運動神経の良さを誇張する下りとかも邪魔。彼の演技自体には全くもって問題はないんだけど、この役どころを演じるには、顔の骨格からして余りにも逞し過ぎるし男らし過ぎる。

ビリヤードでの賭け事にどっぷりハマった主人公の悪友を演じた佐藤浩市は、荒削りながらも、今にそのまま伝わる野性味たっぷり溢れた熱演が好印象。

登場シーンも台詞も少ないが、着流しの着物姿で登場する柄本明の存在感の凄さ、女性への戸籍変更が認められる何十年も前のこの作品で、心優しくも秘めた熱い想いを持ったニューハーフの踊り子役を演じたカルーセル麻紀の当時の美貌と演技力の高さにも目を奪われた。

何と言っても、堅気になった伝説のハスラーを演じた山崎努のカッコ良さよ・・。ダンディーと言う形容詞がこれほどぴったり当てはまる俳優さんは中々いない。

作品全体の流れとしては文芸作品らしく、極めて正統派の描かれ方で、内田けんじ、古沢良太、上田誠あたりの新感覚の邦画に慣れてしまった視聴者にとっては目新しさを全く感じないかもしれないが、ストーリー自体も、出演している役者さん全員の演技がしっかりしているので、退屈に感じるところは全くなく、きちんと最後まで楽しめる。深作監督らしく、キャラクターの感情描写は上手く、そこで描かれる人情味は舞台の大阪にマッチしている。

クライマックスの人生を賭けた父と息子のビリヤード対決シーンなんて、なかなか見応えあり。但し、原作にあるのかどうか知らないが、あのラストシーンは救いなさ過ぎる・・。

5歳まで枚方市で育ち、その後に大阪を離れてしまった身としては、どこか大阪に対する憧憬の念があり、グリコの巨大なネオン看板で有名な道頓堀橋くらいは分かるものの(当時はあんなドブ川のように汚かったのかと衝撃!)、松坂慶子と真田広之が二人で初めてデートをする大阪城を背景とする池に渡る橋がどこの公園なのか?とか、台詞で出てくる「淀屋橋には足を向けて寝れへん」「千日前のビリヤード場」などの地名の土地勘が全然無いのが若干もどかしい。
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