炭酸煎餅

キング・オブ・コメディの炭酸煎餅のレビュー・感想・評価

キング・オブ・コメディ(1983年製作の映画)
4.8
「ジョーカー」の元ネタの一本と言われる、ロバート・デ・ニーロ主演の1983年のサイコホラー。
サイコホラー?……いやこれサイコホラーでしょ!?怖いよ!!

もう何が怖いってデ・ニーロ演じるルパートの顔と目がずっと怖い。
スタンダップ・コメディアンになりたいらしいのに、その為にそれらしい努力や研究をする様子は特になく(ちゃんとアドバイスしてくれる人がいても耳を貸さない)、日々「有名になった自分」を妄想しては自宅でラジオごっこしたりして一人で喋りまくる彼の姿は、暴力などの分かりやすい衝動を伴わないだけに「憧れ」だけが肥大した、「ただ"なりたいだけ"の人」の狂気を色濃く描き出しています。

映画はそんな彼の妄想に基づく行動がどんどん病的にエスカレートしていく様を写す痛々しい展開が続き、きっつ……と思っていたらついに一線を踏み越え、憧れの人、ジェリー・ラングフォード(ジェリー・ルイス)を拉致して脅迫し、彼の番組に自分を出演させようとする……という展開になるんですが、そんな事をやっていても彼のキャラが突如暴力的になるとかいう訳じゃないのがまた怖い。
よくある感じだとそこから急にタガが外れて(分かりやすく)怒鳴ったり暴力的になったりしそうなものですが、事件を起こす前と全然変わらないんですよね。
拉致事件の犯人なので当然捕まってFBIに尋問されたりするんですが、そんな状況でもまるで全てが当たり前の出来事みたいににこやかに笑みを浮かべて極めて穏やかに対応して、明らかな狂気じみた仕草とかは出さないわけです。
(なおこれらの犯罪行為をするに当たって、ルパートは知り合った同じくジェリーファンのストーカー女と手を組んでるんですが、この2人がお互いをあからさまに「自分は理性的だがこいつは頭おかしい」という目で見下して、一方的に利用してるつもりなのがまた怖い)

終幕の展開と解釈も合わせて、なんというか主人公の「おとなしい狂気」に観客を巻き込んでいくような、そんな作品だったように思います。
本作をデ・ニーロのベストと評する人がいるのも納得の作品でした。
炭酸煎餅

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