六四二

海の上のピアニストの六四二のネタバレレビュー・内容・結末

海の上のピアニスト(1998年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

主演の1900ことティムロスより、目が泳ぎ続けるラッパのマックスの方の印象が強い。味のある個性だがこういう病気らしい。彼は映画の語り部の役割を担う。
この映画には印象的なシーンがいくつかあるが、マックスと1900が出会うところは映画史に残したい名場面である。二人のその後の友情を象徴するように、ピアノと共にワルツを踊るようなカットが楽しげで華やかでダイナミックで、とても好きだ。

客船ヴァージニアン号の中で拾われた赤ん坊が「1900」ナインティーンハンドレッド と名付けられ、クルーに愛されながら船の中で成長する。そして何故か天賦の才を持ったピアニストになる。長い船旅をする乗客にバンド演奏を聞かせ楽しませるのだ。

ニューヨークを目指す移民と違い、目的のない1900は船を降りることをしない。だからどこにも着かない。目的が無く旅立ちの無い成長譚は成立しないものだ。ノスタルジックな回想により、伝説の人として1900のことが語られるが、最後の彼は若いはずなのに頑固な老人のようである。希望に繋がるストーリーにはならない。そうしない手もあったろうに作家の好みなのだろう。

以下は架空の本作に対するタラレバのお遊びになる。
1900はあまりにも強くピアノに惹きつけられたことで、知らない世界への恐れを凌ぐほど外への興味が持てなかったのかもしれない。彼のロマンを完全に満たしてくれる存在としてピアノがあった。好きな異性への感情に拮抗するものが義理人情、使命感以外にあるとは思えないのだが...
父や母の存在があれば、親離れ 即ちヴァージニアン号を降りて広い世界に足を踏み出すよう強く促したかもしれない。

なんだか、今のご時世に通じるところがあるなあとも思う。
ヴァージニアン号は居心地が良い擬似世界に見立てることもできそうだ。
六四二

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