KnightsofOdessa

シティ・オブ・ウインドのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

シティ・オブ・ウインド(2023年製作の映画)
3.5
[モンゴル、シャーマン青年の恋と成長] 70点

Lkhagvadulam Purev-Ochir長編一作目。ウランバートルのユルト地区にて、グランパ・スピリットは強力なシャーマンとして近所の人々を助け慕われていた。長い髪で顔を覆い隠した謎めいた人物で、その名の通りの最強おじいちゃんかと思いきや、その仮面の下には17歳の内気な青年ゼがいた。おじいちゃんを騙っているわけではなく、シャーマンとして最強おじいちゃんを降ろしてきているからそう呼ばれているようで、儀式中に仮面を外していることからも、周囲の人物はそれを知っているようだ。知って尚、彼に助けを求めている。彼は17歳にしてそんな伝統の担い手なのだ。一方で、高校生でもある彼の前には、苛烈で冷酷な社会が広がっている。真面目で内気な彼はイジりの対象となっていて、しかも意味分からんくらい厳しく尊大な担任教師が従わないと卒業させないぞと脅してくるのだ。生徒たちの反応を見る限り、その脅しが響くほど、社会は学歴に厳しかったり、それに似た理不尽がまかり通ってるのだろう。校舎や生徒の雰囲気が似ているのも相まって、エミール・バイガジン『ハーモニー・レッスン』を思い出してしまうのは私だけじゃないと思う。流石にバイガジンに比肩するレベルではないが、閉塞感は凄まじい。そんなある日、客として訪れた先天性の心臓病を患う少女マーラと出会い恋に落ち、学校でも家でも孤独という二人は急速に惹かれ合う。そんな彼女は伝統や迷信を信じていない。彼女との甘い日々が、ゼを更に混乱させる。そんな"伝統か現代性か"という問いに対して、ゼはどちらかを選ぶわけではなく、それら全てを成長の糧と捉え、自らコミュニティに関わることを選択する。家族とも、荒くれ者で多分地域からも白眼視されている近所の兄ちゃんとも、学校の同級生たちとも。なるほど興味深い選択だ、私は支持したい。

ちなみに、マーラは人工心臓弁を付けているんだが、二人で走った後で心音を聴かせる場面がある。ここで、青信号の残時間通知音が観客には心音の変わりとして聞こえ、残時間が減って早くなるというのが早鐘を打つのと重ねられていた。なんてカッコいい演出!
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