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雪山の絆のRenのレビュー・感想・評価

雪山の絆(2023年製作の映画)
4.0
【ウルグアイ空軍機571便遭難事故】1972年10月13日、同機体がアンデス山脈に墜落した。乗員乗客45人のうち29人が死亡したが、16人は72日間に及ぶ山中でのサバイバル生活の末に生還した。
(Wikipediaより)

この事件を題材にした映画は『生きてこそ』があるがそちらは未見。「壮絶」を地で行く究極のサバイバル映画であり、エンタメ(になってしまっている映画)とヒューマンドラマの味を濃厚に合わせ持った傑作と言っていい。

開始15分で息を飲む絶望のピークがやってくる。しかしその後も144分という短くない上映時間で、随所に希望の兆しをちらつかせながらもただ絶望と疲弊の一途を辿る。
人の命が機体の一部のように簡単に壊れ、吹き飛ばされ、呆気なく朽ちていく。この映画を観る前と同じように飛行機や雪や山を見られるようになるにはかなりの時間を要するだろう。それくらい嫌になる。

外傷と凍死と餓死に怯えながら何夜も過ごす彼らの様の迫り方。こちらの息まで白くなりそうだった。そして暖房の効いた部屋で布団を被りながらこんなことを思ってごめんなさいと何度も思った。
日中から30℃低下する寒さを凌ぐために震えながら荷物でバリケードを作って衣服に包まる感覚は想像するだに恐ろしいが、やはり食料不足がいよいよ深刻化した瞬間の「そうなりますよね....」の絶望感。R指定も納得の某衝撃展開だが(事件同時、世論もこの点で生存者への批判と賛否が巻き起こったらしい)、単にショックを与えてやろうというポルノ的消費になっていなくて好感が持てた。
自分には彼らのことをどうこう言う気は全く無いし、生きている人間には生きる権利があるという根底に立ち返るには十分すぎる環境だ。序盤にちらと挿入される教会のシーンにも意味がある。パイロットの遺言もフリになっている。最後に人を助けるのは神ではなく人なのだ。

生き延びた先に何があるのか、は群像劇として個々の思想に分散されており、彼らはその手段である「雪山で死なずに人里へ帰還する」ことで繋がっている。
絶対的なリーダーによって整えられ、勝利という目標に団結する(曰く、絆)ラグビーチーム、パスの声を無視しゴールラインに走る行為も意味を為してくる。この辺りの対比もしつこく無く、とてもスマートに処理されている。

約2時間が雪山での話のため、画面の変わり映えは少ない。つまりドラマの殆どを役者力に頼ることになる。
どんどん汚れてやつれていく俳優陣、本当に疲弊し切っているのではととても不安になるほどだった。メイク&ヘアで評価されるのは当然。実録ものらしくナレーションベースではあるが、ナレーター=主人公という体でもなく、もっとフラットな群像劇になっているのも良かった。全員を応援し、もう誰も死なないでくれと祈れる。死者が出てテロップが表示される悲しみをもう味わせないでくれと願える。次は誰の命が奪われるか分からないというサスペンス的なハラハラも、このシチュエーションでならば真っ当な緊張感だ。
そして、小説のような叙述トリックも仕掛けられ(個人的には結構衝撃だった)、その緊迫感すら間延びさせないぞという気迫を感じた。

ホモソーシャルで男性性=力を助長させるような見辛さも極力排除され、ひたすら団結していくのも今の時代とても観易かった。若干女子が蚊帳の外すぎる気もしたが、実話もの故に致し方無しか。
Netflix加入者は、観ない理由があまり無い。上映時間に耐え得る集中力だけ準備して鑑賞されたい。自分はほぼノンストップで釘付けだった。

その他、
○ オスカーでも視覚効果賞にノミネートされてほしかったな〜。
○ ヌマ役のエンゾ・ヴォグリンシクの佇まいにアダム・ドライバーを感じる。今後がとても楽しみ。
○ 超壮絶な事故シーンに少々『デスプルーフ ~』みを感じてしまった。
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