あんず

ほかげのあんずのレビュー・感想・評価

ほかげ(2023年製作の映画)
4.1
森山未來が出ているので見たかったのに、見逃してしまった作品。横浜シネマリンにて監督舞台あいさつ付きの回を運良く観ることが出来た。簡単に言えば、戦後のPTSDに悩まされる人々の物語で『戦争と女の顔』に通じる狂気がそこかしこにあった。戦争を知らない世代にとっては想像すら難しい内容だったので、映画を通じて知れたことは貴重だった。

暗くて怖くて、ホラー映画を観ているような気分に何度もなった。前半は、焼け野原で辛うじて焼け残った居酒屋(売春宿)で女主人と復員兵、盗みをして暮らす少年が疑似家族のように暮らし始める。朝ドラのヒロインと同一人物とは思えないような趣里。抑えた演技の中に徐々に狂気を覗かせる。そして、相当な数の中からオーディションで選ばれたという復員兵の河野宏紀が強烈な印象を残した(初めて見た方だったが2022年に監督作品がぴあフィルムフェスティバルで満場一致の大賞受賞とのこと)。

後半は居酒屋にいた少年が戦地で負傷した森山未來に仕事を頼まれ、ある目的のために共に行動する。たまたま通りかかった座敷牢に閉じ込められた復員兵と森山未來の無言の対話がすごく印象に残った。共感には必ずしも言葉は必要ないのだなと。言葉に出来ないような体験をして来た者同士だからこそ、心が通じた瞬間だったのかな。

戦争が終わったから、戦争を生き抜いたから、その後は平穏な生活を送れるわけではない。頭では分かっていても、こうやって映像として突き付けられるとかなりダメージを受けるし、胸が痛い。こういう悲しい歴史の続きに、私たちは生きている。
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