KnightsofOdessa

A Prince(英題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

A Prince(英題)(2023年製作の映画)
3.5
[ある青年と不可視の王子] 70点

ピエール・クルトン長編二作目。16歳の青年ピエール=ジョセフ(PJ)は庭師になるために養成所に入る。そこで彼は、所長のフランソワーズ、植物学講師アルベルト、新しい雇い主アドリアンといった人々に出会う。PJの両親、銃鍛冶兼猟師の父と剥製師の母は仲が悪く、その影響を受けたPJは内向的な性格に育っていた。そして様々な人々との出会いを通して、PJの心は彼の父親的存在への憧れとそれでいて"父親"への憧れのなさの間で揺れ動き続け、セクシュアリティとアイデンティティを模索し続ける(なんの躊躇もなくアルベルトとアドリアンと3Pしてたとこは驚いた)。彼は狩猟にも銃にも興味はないが狩猟小屋には興味がある。そこは狩猟の後で父親と風呂に入った思い出の場所なのだ。一方で、フランソワーズの養子としてインドからやって来たクッタという少年の物語が、養母となったフランソワーズの口から、本人が全く登場しないままに語られる。彼は作中で唯一PJよりも年下の人物だ。フランソワーズはクッタがフランスに馴染んでいく様を園芸に例えている。後にクッタは高貴な生まれと分かり、彼こそが題名にある"王子"であると明かされるのだが、最終的に彼は田舎の廃墟を一人で守りながら土に吸収されていく。園芸によって人生を切り開いたPJとは対照的に、クッタは"園芸"によって自分を見失ったということか。映画は演者の話す台詞がほぼなく、静謐な画面の中に演者とは違う人間が吹き込んだナレーションによってそれぞれの心情、鋭い洞察と観察が語られる。画面と音が分離することで生まれる観客との距離感は、本作品のメインモチーフである園芸とも重なり、我々は花を愛でる観察者へと変貌させられる。となると、どこまでも"園芸"が形を変えて顕現し続けているのか。
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