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憧れを超えた侍たち 世界一への記録のhikarouchのレビュー・感想・評価

3.6
Amazon Primeで配信が始まってすぐに飛びつくように視聴。

現実の大会がそこらへんの創作物よりもよほど劇的だったため、本作に膨れ上がった期待を上回るほどの衝撃的なエピソードや展開があったわけではないけれど、少し垣間見える選手たちの人間個人としての葛藤や想いがうかがいしれてとても良かった。

大会前の壮行試合で「なんか盛り上がり足りなくない?もっと盛り上がって欲しいなー」と意外にも日本の観客に対して不満を漏らす大谷、それに対して、「いや(お前のHRに)みんなドン引きしとるんや」と国民を代表してツッコミを入れる山田哲人。

中国戦での余裕綽々のベンチ裏での大谷の表情、気合が入りまくってテンションマックスになっているイタリア戦のベンチ裏での大谷の早口など、普段メディア向けに見せられる表情と違う部分が見られるのはとても興味深い。そして、彼は自チームでもそうしているように、相手の打者の特徴や反応を見てどのように投球を組み立てて打ち取るかを脳みそフル回転で考えていることがうかがえたのも良かった。

そしてなにより、あの準決勝メキシコ戦。衝撃的な一発を浴びて降板した佐々木朗希がベンチ裏で静かに流した涙。成熟したアスリートが試合中に涙を流すことは非常に稀だ。まあ多分あまり褒められたことではない。でもそれだけの重みを肩に乗せて先発マウンドに登っていたということでもあり、まだやはり若干21歳の青年なのだということを思い知る場面だった。

指の骨折をおして試合に出続ける決断をした源田、それに応える栗山監督はじめとした首脳陣。「お前には将来があるからムリはするな。代わりになれる中野もいるし」という判断をする方が多分簡単。でも、選手がこの大会にどれだけの想いを掛けているのかは分かっている。「おれは今なんだよ」ということだ。

東京オリンピックの野球チームのNHKドキュメンタリーでも怪我を押して出場を渇望する柳田が代表にかける想いに胸が熱くなったし、北京オリンピックに望むアメリカバスケットチームのNETFLIXドキュメンタリー(The Redeem Team)でも同じだった。アスリートが、個人のためでもなく、所属チームのためでもなく、国を代表して戦うことの想いには、他にはない熱さと重みがあり、見ていて感動してしまう。
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