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哀れなるものたちのRenのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.0
これは名作。個人的には、映像作品としての豊かさ、全体の納得度、物語へののめり込みの度合いは『バービー』に勝るとも劣らない(並べて語れる作品ではあるので敢えて名前を出した)。

自死を選んだ妊娠中の女性にその胎児の脳を移植し蘇生、「見た目は大人、頭脳は子ども」の彼女は猛スピードで「世界」を学んでいく。彼女の成長の過程で我々も世界の違和を目撃していくことになる。

随所で言われているように『フランケンシュタイン』のようなマッドサイエンス要素もあり、自分の大好きな『アルジャーノンに花束を』(映画未見)的な話でもあった。
そしてやっぱり強烈なエンパワーメント映画だ。全編通して、女性(の身体)への所有欲に塗れたキモくて有害な男性性の話と「自分(の身体)は自分のもの」の話であることが徹底されている。ほぼその話なので、物語としての純度はとても高い。この辺りも『バービー』に近い。

ベラを次第に囲い始める「独占欲」への疑問と恐怖は、加害側/被害側問わず少しでも当事者として共感してしまうものであると思う。そのための地盤として、我々とベラを紐付ける装置としての圧倒的な美術と撮影と役者力。
ベラが初めて世界に触れる感動を我々も追体験する。あの挿絵のような世界の風景は言うまでもなく未知・不思議・憧れ・幻想の具現景色。我々の知っている世界とは異なる色合いの空や建造物、広角レンズとズーム多用のカメラワークが我々にも世界を新しいものに見せている。もう一度あなたもこの世界に潜む歪みをフラットに直視してみましょう、という監督からのメッセージ。
登場する数か国の全てがロケではなくセット撮影(全部を歩くのに30分かかる巨大セットらしい)。徹底している。少しでも我々が見たことがあってはいけないのだからロケせずセットで作れという信念。

旅の中でベラと共に行動し生活する男性が数回入れ替わる。彼らの多くに共通しているのは、「世間知らずで無邪気っぽいベラを保護したい・俺がこの子に教えたい」という感情をベラに抱いていて、それが親性(父性)≒優しさ でなく、キモい加害性として表出していくこと。もっと激しい言葉を使えば、男性は女性に「処女性」を求めているということが次々と表出する話になっている。

推しに恋愛禁止を強いる異常なアイドル界隈の病理にも細い糸で繋がっていると思う。自分が好意を寄せている女性は「潔癖」でないと気が済まない所有欲。
精神は子どもだけど身体は成熟した女性というベラの特性がよりその異常性を増大させる。

「自分(の身体)は自分だけのもの」である。生きることと密接に結びついた性の観点から、自らをアイデンティファイすることのメッセージへ。寓話の体でありつつ、どの属性の人間でも考えていないといけない現実問題の濃度は非常に高い。
ラストも印象的・衝撃的で物語のオチとして/そこを取り上げたか!という意外性を買って楽しんだが、ブーメランやカウンターとしてのエンタメ性に傾いてしまったのでは?と一瞬思った。一考の余地あり。

その他、
○ 140分越えのランタイムだけど、こんなに短く感じたのが驚きだった。そろそろ最終章的な部分か〜と思ってからが一瞬で終わり、「もう2時間近くも観てたの!?」と衝撃。
○ 章ごとの中表紙の部分まで映像に拘りまくっている。一瞬も手を抜かない。寓話、ひいては絵本的な建て付けをずっと忘れていない。
○ ランティモスの過去作は『聖なる鹿殺し ~』しか観ていないが、今作のほうがとっかかり易くて分かりやすいと思った。R18の性描写を目撃する覚悟だけ持って、ぜひ多くの人に観てほしい。
○ 大好きな(G)I-DLEの『Nxde』という曲。マリリン・モンローをモチーフにし、ヌードやセクシーな自己表現とそれを消費する民衆について歌い、最後の一節で「私はヌードで生まれた / 変態はあなたのほう」と言い放つ最高のエンパワーメントソング。この曲を思い出した。

『(여자)아이들((G)I-DLE) - 'Nxde' Official Music Video』
https://youtu.be/fCO7f0SmrDc?si=uxc5c8cPeOOGvEVk
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