メシと映画のK佐藤

窓ぎわのトットちゃんのメシと映画のK佐藤のネタバレレビュー・内容・結末

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

去年のゲゲゲの謎同様全くのノーマークであったアニメ映画。
観る予定は無かったのですが、映画関係のオフ会等で評判を見聞きして観に行った次第です。
上述のオフ会では、2023年のベスト映画に挙げられている人もいる程でした。
個人的にはそこまででは無かったものの、前評判通り中々の良作でした。
尚、原作は未読。

パンフ掲載のインタビューにおいて監督が語られている通り、本作には反戦、真の平等、教育、友との別離、魂を売らない高潔な生き方、命とは何か…等々の要素が沢山詰め込まれているのですが、それらが終盤で巧く一つに収束して行っていれば、個人的には文句無しの満点でした。
小林先生そのものを描きたいし、上述の要素もきっちり描きたい…描きたいものの渋滞が発生していた様に思います。
トットちゃんがトモエ学園の学友達との再会を約束し、疎開先に向かう電車の描写で終幕となっていて、「え、ここで終わっちゃうの?」と思う程明確な幕切れでは無く、上述の要素が纏まってもいなかったので、唐突な幕切れと云う印象が強い。
本作を彩る要素の一つ一つはとても魅力的であったので、少し勿体無い事をしていたな…と。
ただ、個人的に本作のハイライトは、泰明ちゃんの死を悲しみ走り出すトットちゃんのシーンであったのではないかと考えています。
方や大親友の死を哀しみ泣き崩れるトットちゃん、方や戦地で死ぬ事を喝采する群衆の対比によって、人の死の捉え方を狂わせる戦争の怖さを上手に描けていた上述のシーン。
劇中で描かれていたトモエ学園の様な正しい教育をしていないと、この様な事になるよと云う思いも込められていたのではないでしょうか。

個人的に本作で秀逸だと感じたのは、色彩。
序盤から中盤のトットちゃんの夢の世界は明るく、戦争が激化して行く終盤はほぼ暗目。
物語の展開に合わせて色彩がガラリと変わる様は、実に美しく巧かったです。

そして、もう一つ個人的に秀逸であったのは、上でも少し触れていますが、戦争の怖さを巧く描けていた事。
自由が丘駅の駅員さんが変わっていた事等、台詞では無く画で静かにさりげなく戦争が日常を侵食して行く過程は、下手なホラー映画よりずっと怖かったです。

混迷極める現在の世界情勢。
そんな中で本作が公開された事に、意義深いものを感じました。