メシと映画のK佐藤

落下の解剖学のメシと映画のK佐藤のネタバレレビュー・内容・結末

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

タイトルに込められた意味と、それを軸とした組立方が見事な良作でした。
前評判に違わぬ出来であったと思います。

①丁々発止のやり取りが展開する法廷劇と思わせておいて、その実夫婦の終わりの物語であった事。
②落下には、主人公のサンドラの夫サミュエルの高所からの落下以外に、サンドラ夫婦の関係の凋落の意味が込められていた事。
③解剖学とは、形状・構造(事実)を解き明かす事であり、善悪を判断する事にあらず。
本作では、法廷においてサンドラ夫婦の関係を事細かに解き明かして行き、最終的な善悪の判断は、夫婦の息子ダニエルに託された事。
以上①から③迄の要素が絡み合い、全ての事実が出尽くし、それらでも善悪の判断がつかない場合、最終的なジャッジは己が下さなければならないと云う考えに至ったダニエルが、かつてのサミュエルとの会話から父が自殺を実行せんとしていたと証言し、それがサンドラの無罪と云う判決の決定打となると云う物語の着地点へと至る…この道路整備が秀逸でした。
恐らく本作には、物事は一つの側面から測れないにもかかわらず、兎角人はその様に行動しがちである事への批判も込められていて、本作に大ドンデン返しや真犯人判明のカタルシスを求める観客(お恥ずかしい話、自分もです😅)に対するカウンターになっていたのも見事でした。
結局サミュエルはサンドラに殺害されたのか、それとも自殺だったのかは、本作では藪の中のまま終わります。
が、上述して来た事から考えると、やはり本作でそこは重要では無いのでしょうね。

本作では一切の回想シーンを使用していない(それっぽいシーンもありますが、それらはあくまで録音テープや証言からのイメージに過ぎず。)のも、上述してきた本作の作りや要素に沿った仕掛けで、これまた見事。

父が本当に睡眠薬で自殺を図ったのかの確認の為に、ダニエルにより投薬されて一時命の危機に陥ったダニエルの愛犬スヌープ。
このシーン、かなりの訓練を経ての「演技」だったそうで、スヌープ役のワンコの演技力に脱帽させられました😅